関西圏以外の方は、関西弁と言えば「茶しばく」を想起する方も少なくないだろう。
「茶しばく」とは、喫茶店に行ってお茶やコーヒーを飲み一服することを指す。
ところが、である。
この令和の時代に、本当に関西人が「茶しばく」という言葉を使用しているのか、かなり疑問である。
いや結論を言えば、ほぼ使っていないのである。
本稿では日常的に関西弁を話す主に関西圏の298名にアンケートを実施し、この「茶しばく」の使用状況について調査することにした。
本調査の結論は、こうだ。
▼本調査の結論
・「お茶しばく」はほぼ使われていない言葉である
・「お茶しばく」はやや乱暴な印象を与えるので使用には注意
・「牛しばく」は意味すら通じない可能性が高い
関西圏以外の方にとってはかなりショッキングな結果になってしまうが、深呼吸をしてからぜひ読み進めていただきたい。
「茶しばく」を使う関西人はわずか14.8%
では早速だが、関西人による「茶しばく」の使用状況から見ていくことにしよう。
結論からいえば、関西弁を日常的に用いている男女の実に56.4%が、「茶しばく」を一度も使ったことがないと回答している。
さらに言うと、「茶しばく」を「あまり使わない」28.9%を足すと、85.2%もの関西弁ユーザーが「茶しばく」という言葉を使わないことになる。
一方で、「かなり使うことがある」と回答したのは、全体のわずか2.7%に止まり、関西人の中でもごくごく一部であることがわかる。
「時々使うことがある」の12.1%を足しても、15%にも満たない割合だ。
これだけを見ると、「茶しばく」は本当に関西弁なのか?を疑いたくなるレベルと言っても過言ではない。
ただし、「茶しばく」の意味を回答者に問うたところ、298人中288人が正解しており、正答率は96.6%である。
確かにこの割合は全国的な正答率と比較しない限り、関西人だけが飛びぬけて高いのかどうか不明な部分はある。
が、少なくともほとんどの関西人にとって「茶しばく」という言葉は、意味は知っているけれど使うことはない言葉、であると考えて間違いない。
これが2023年時点の「茶しばく」を取り巻く関西弁の現状の実態だ。
全体としてこの15%にも満たない使用率なので、たかが知れているところはあるが、もう少しこの「茶しばく」の使用状況を深掘りしてみることにしよう。
「茶しばく」は男性のほうがやや使う
まず今回の回答者の男女割合は、男性31.9%、女性68.1%と女性が多い割合になった。
そのため男女差の割合を見れば、「茶しばく」の使用率が変わる可能性がある。
ということで、男女別にクロス集計した結果が下図だ。
全体を見ると、「茶しばく」はどちらかと言うと女性よりも男性の使用率がやや高いことがわかる。
男性では「かなり使う」(4.2%)と「時々使う」(17.9%)で22.1%が使用するのに対し、女性は「かなり使う」(2.0%)と「時々使う」(9.4%)の11.4%と半分となった。
また逆に「一回も使ったことがない」割合も、男性は48.4%に対し女性は60.1%と高く、どちらかと言えば男性寄りの言葉遣いだといえる。
ただし、男女いずれにせよ「茶しばく」の使用率は多くとも2割程度であり、8割の関西人にとっては使うシーンのない言葉であることに変わりはない。
年代差はなく「使わない」が大多数
次に年代によって「茶しばく」の使用率に違いがあるのか?を見てみた。
というのも、この「茶しばく」は2023年現在の「推しが尊い」のように、関西地方限定の一過性の流行語のようなものであった可能性も考えられるからだ。
結果は、以下である。
かなりある | 時々ある | あまりない | 1回もない | |
---|---|---|---|---|
20代 | 1.9% | 15.4% | 28.8% | 53.8% |
30代 | 4.0% | 11.9% | 24.6% | 59.5% |
40代 | 1.2% | 11.0% | 35.4% | 52.4% |
50代以上 | 3.2% | 12.9% | 35.5% | 67.7% |
「かなりある」「時々ある」の割合は、どの年代を見てもおおむね15%前後であり、年代別の使用率の違いは見られなかった。
つまり「茶しばく」は特定の世代の流行語のようなものではなく、どの世代も「なぜか意味は知っているけど、実際は使わない言葉」という、かなり不思議な一面が見られる。
ちなみに詳しくは後述するが、「茶しばく」を使ってる人はどんな人?を聞いた設問では、若い世代は「年配の人」と言い、年配にあたる世代は「若い人」と、お互いなすりつけあっている状況も見られた。
「茶しばく」は調べれば調べるほど、謎が深まっていく言葉である。
「茶しばく」を使っている人を見ることも3割程度
ここまでで、「茶しばく」の死語同然の絶望的な状況ばかりが目立ってしまう結果となった。
だがではなぜ関西人といえば「茶しばく」というイメージがつきまとっているのか?の説明がつかない。
そこで先ほどは「茶しばくという言葉をあなたは使いますか?」という質問への回答だったが、もう少し幅を広げてみればどうなるのだろうか?
つまり「あなたの身の回りに茶しばくと言ってる人はいますか?」に質問を変えてみた。
その結果、「茶しばく」を使っている関西人の割合は32.9%まで倍増した。
つまりは関西人の3人に1人が「茶しばく」と言っている人を「時々以上」見かける、ということになる。
一方で7割はほとんど見ないわけことになるので、やはり「茶しばく」と言っている人はレアな存在であることは間違いない。
レアではあるが、ゼロではない。
では、一体この「茶しばく」と言っている人はどのような人なのだろうか?
「茶しばく」を使う人のイメージは「年配の人」「やんちゃな人」
「茶しばく」という言葉を使う人はどんな人に多いイメージか?を聞いた結果が、下図だ。
もっとも多かったのは「年配の人(50代以上)」(35.6%)というイメージで、「ヤンキー(元ヤンも含む)」というやんちゃなイメージが27.5%と続いた。
この年配とヤンキーというイメージは、重なっていることも多く、
「50代以上のちょっとヤンチャしてたんだろうなって人」(29歳女性、大阪府)
「ガラの悪い昔のおじさん」(35歳女性、大阪府)
このようなイメージを持つ人もいた。
いずれにせよ「しばく」というのは、本来だと「引っ叩く」であったり「制裁を加える」というような、とても強い語感のものだ。
そのため「茶しばく」には、男性的でかつやんちゃなイメージがつくのは、ある意味自然と言える。
一方で「茶しばく」を使う人のほかのイメージに目を向けてみると、「コテコテの関西人」(13.8%)、「関西弁が強い地域の住民」(6.7%)が挙がっている。
コテコテの関西人というのは、関西人から見ても少し違和感があるほど方言が強い関西人と言ってもいいので、「関西弁が強い地域の住民」と似ている。
具体的に回答者の言葉を借りると、
「大阪の南以外に住んだことのない住民」(52歳男性、大阪府)
「泉州とか大阪の南部出身のイメージ」(39歳男性、大阪府)
のように、関西弁の1種である泉州弁や河内弁をイメージさせるようだ。
ちなみにこうした大阪南部の関西弁は、「あなた」のことを巻き舌気味に「ワレ」と呼んだり、語尾は「~やんけ(~でしょう)」と少しすごむような感じになり、敬語表現もあまりないので、同じ関西人から見てもやや恐い印象がある。
総じて「茶しばく」という言葉は、当の関西人から見てもやや乱暴な印象であることは否めない。
そのため関西圏外の方は、間違っても目上の人や初対面の相手に使うべきではないことは付記しておく。
「牛しばく」の使用率はわずか1.3%
最後に「茶しばく」の派生形として「牛しばく」という言葉もあるらしい。
牛しばくとは、(主に牛丼チェーン店に)牛丼を食べにいくことを指す。
「らしい」と言ったのは、その実在性自体がやや疑われるからだ。
結論からいえば、2023年時点で「牛しばく」は関西弁ではないと考えたほうが自然だ。
「牛しばく」の使用状況を聞いた結果が、下図である。
「牛しばく」を1回も使ったことのない関西人の割合が、なんと93.0%にも昇る。
一方で、「時々使うことがある」割合で1.0%、「かなり使うことがある」割合にいたってはたったの0.3%しかいない。
合わせても100人に1人程度の存在率である。
この割合の低さだけでも十分だが、「牛しばく」は関西弁ではないと言うに足るもう一つの証拠がある。
「茶しばく」は使用率は低いものの、関西人の96.6%がその意味を正しく知っているという状況だった。
では「牛しばく」のほうはどうだろうか?
牛しばくの意味の正答率はわずか34.2%
結論からいえば、「牛しばく」という正しい意味を知っている関西人はわずか34.2%だった。
つまり関西人の65.3%は「牛しばく」の正しい意味を知らないか、間違った意味でとらえているのだ。
実際に「牛しばく」とはどういう意味か?を聞いた回答で、間違っていたものをいくつか紹介することにしよう。
「牛を食べる」(25歳女性)
もっとも多かった間違いはこの「牛肉を食べる」という回答だった。
牛丼も牛肉を食べることではあるので、これを間違いとするのは少々厳しいかもしれない。
だが「お茶しばく」が必ずしもお茶を飲むことを指すわけではない(コーヒーやジュースでも可)のが正解なのとは反対に、「牛しばく」は厳格に牛丼を指している(らしい)。
そのため、ここでは牛肉や牛丼以外の牛肉料理は不正解とした。
また次に多かった間違いが、コレである。
「牛をたたく、いじめる」(46歳男性、兵庫県)
「牛を痛めつける」(32歳女性、和歌山)
「しばく」の本来の意味は先述したが、聞き慣れない「牛しばく」という言葉を、本来の「しばく」の意味にとらえてしまう関西人も少なくない。
通じるだろうとタカをくくって関西人に「今日はサクッと牛しばきに行かへん?」なんて笑顔で言った日には、サイコパス発言として受け取られてしまうリスクすらある。
「牛しばく」は、当の関西人に対しても通じにくい傾向が見られるため、もはや関西弁と考えないほうが自然である。
まとめ
以上が「お茶しばく」と「牛しばく」にまつわる2023年時点の状況を調査したレポートとなる。
関西圏以外の方からすれば、意外な結果になったかもしれない。
だが「お茶しばく」は乱暴な言葉遣いの印象を与えてしまうし、「牛しばく」にいたっては正しい意味が通じない可能性のほうが高い。
いずれにせよ、冗談以外で使う文脈はほぼないと言ってもよく、関西弁の語感やニュアンスに詳しくない人にとってはわざわざ使わなくていい言葉であることに違いはない。
本稿の結論をおさらいすると、下記だ。
▼本調査の結論
・「お茶しばく」はほぼ使われていない言葉である
・「お茶しばく」はやや乱暴な印象を与えるので使用には注意
・「牛しばく」は意味すら通じない可能性が高い
コメント
コメント一覧 (1件)
ケンミンショーのような大げさにあげつらう番組のおかげで知識として頭の中にあっても、リアルではめったに耳にすることはないですね。
ですからこのアンケート結果は実感に合っています。