「そうめんとひやむぎは、どっちが美味しいのか?」
この問いは、正しいようで半分は正しくない。
つまりこれを「どちらの味がいいか?」という問いだと考えるのであれば、現代ではどちらも同じ原材料、同じ製法から作られているわけで、「同じ味です」としか言いようがない。
となると、味以外に美味しさを決定づけるなにかが存在することになるわけだが、本稿ではそこに焦点を当てて迫っていこうと思う。
ただしわざわざ調査しなくても、「夏にはそうめん」という圧倒的なマジョリティが日本には存在していることはわかりきっている。
両者に話を聞けば「そうめん派」が圧倒的多数のため、数の暴力でひやむぎ派の声をかき消してしまうことは目に見えているのだ。
そこで本稿では、そうめんとひやむぎが並んでいたらひやむぎを選ぶという、ひやむぎ愛好家300人にアンケート調査をおこない、ひやむぎの魅力を調べることにした。
本稿の結論としては、このようになる。
▼本調査の結論
・ひやむぎ派はそうめんとの違いを知ったうえで、ひやむぎを選好
・ひやむぎが推されるもっとも多い理由は「食べごたえ」
・ひやむぎは伸びにくくアレンジしやすい
それでは詳しく見ていこう。
大半のひやむぎ派はそうめんとの違いを正しく理解している
まずなにより前提として、そうめんとひやむぎは一体何が違うのか?という点をおさらいしておきたい。
製法の違いであったり発祥地の違いなど諸説あるようだが、農林水産省が定めるJAS規格にて、そうめんとひやむぎの定義がされている。
2024年現在ではこのJAS規格がコンセンサスを形成しており、その定義によるとこうなる。
そうめん | 長径1.3mm未満 |
---|---|
ひやむぎ | 長径1.3mm以上1.7mm未満 |
うどん | 長径1.7mm以上 |
ひと言でいえば、「麺の太さの違いしかない」ということになる。
もっと言うと、うどんとそうめんの違いも太さしかない。
言われてみればいずれも主な原材料は小麦粉と塩水なわけで、それをどの太さに仕上げるかの違いしかないというのが現在の実態であるようだ。
てっきり名称が別れている以上、原材料の微妙な違いでもあるのかと思っていた筆者にとって、これは意外な違いだった。
だがひやむぎ派は当然この違いを正しく認識したうえで、ひやむぎがいいだの、ひやむぎのほうがうまいだのと語っているのだろうか?
意外にも82.7%ものひやむぎ派が、このそうめんとの違いを正しく認識していた。
さすがは定番のそうめんを外し、あえてのひやむぎを選好する回答者たちである。
では一体なぜひやむぎ派は、王道のそうめんではなくひやむぎを推すのか?
次章では、その理由に迫っていきたい。
ひやむぎ派が選好する理由は「食べごたえ」が7割
ひやむぎ派たちが、そうめんではなくひやむぎを選好する理由、それをまとめたものが下表だ。
ダントツで多かった理由が、ひやむぎの「食べごたえ」を評価する結果で、実に68.3%も占めた。
食べごたえ | 68.3% |
---|---|
のどごし | 13.7% |
昔からの習慣 | 6.7% |
そうめんに飽きた | 2.3% |
安いから | 2.3% |
伸びにくい | 2.3% |
体にいい | 1.3% |
ギフトでもらう | 1.0% |
色付きがあるから | 1.0% |
入手しやすい | 1.0% |
実際のひやむぎ派の声を紹介すると、このようなものだ。
「以前はそうめん派でしたが、ひやむぎの方がしっかりとした食感があり、満たされた感覚になるので、最近はひやむぎを選んでいます」(58歳女性)
「ひやむぎの太さだから味わえる「もちもち感」がたまらないから」(52際女性)
「そうめんは食べ続けると飽きてくるし、ツルツルとどんどん入ってしまうため太るから、噛み応えがあってバリエーションがあるひやむぎにしてる」(40歳女性)
真夏の暑さで食欲が細ったときに、うどんは重いがそうめんは軽すぎる、そんなニーズにぴったりと寄り添うのがひやむぎと言えそうだ。
つまり実質的に、そうめんとひやむぎの選択はこのように満腹感がどの程度ほしいか?で選択するのが有効と考えられる。
暑いしあっさりしたものを軽く食べたいというのなら「そうめん」、あっさりしたいけど満腹感はしっかりほしいというなら「ひやむぎ」という選択だ。
思考停止のまま「とりあえずそうめん」で選んでいる方は、お腹と相談して選択することをおすすめする。
ひやむぎの「のどごし」を評価する人も13.7%
次に多かった理由は、割合はぐっと下がるものの、ひやむぎののどごしを評価する人たちで、13.7%の割合だった。
具体的な声を紹介すると、このようになる。
「ひやむぎの方がのどごしが良くて好きだから」(34歳女性)
「つるっとしたのど越しが好きだから」(30歳男性)
麺ののどごしを楽しむには、あまり噛まずに飲み込んだほうがのどごしを味わえるわけで、そういう点ではより細いそうめんのほうが有利にも思える。
しかしひやむぎ派の中には、そうめんよりもひやむぎのしっかりしたのどごしを好む人もいるようだ。
その他のひやむぎ派の意見
ほかにもひはむぎ派の意見のなかには、割合は少ないが「なるほど」と膝を打つものもあったので、いくつかピックアップして紹介したい。
まずは、ひやむぎの「伸びにくさ」を評価する声だ。
「安いそうめんはコシがないので、すぐに伸びてべたべたしてしまう。冷や麦だと安くてもそれがマシだと思うから」(42歳女性)
家族でそうめんを食べていると、その後半戦に差しかかかったあたりでそうめんが伸びはじめ、ぶよぶよとした水っぽい食感になってしまう。
冷たい状態のそうめんでもそうなのだから、温めて調理したにゅうめんの後半戦は、食べても食べてもそうめんが減らない地獄に陥ることにもなる。
その点ひやむぎはそうめんよりも太さがあるので、伸びるまでの制限時間が長い。
このように調理の扱いやすさという点で、ひやむぎを評価する人もいた。
そのほかには、このようなひやむぎを推す声も見られた。
「子どもみたいな理由ですが、色付きの麺が入っているとなんだか嬉しいからです」(45歳女性)
「色がついているので子どもも喜んで食べてくれるからです」(37歳女性)
そもそもひやむぎに色付きの麺が入っているのは、そうめんとひやむぎの両方を作っている製麺工場が区別をわかりやすくするために、ひやむぎに色付き麺を入れたことが始まりらしい。
それでも淡いピンクや緑色の麺が入っていると、見た目にも楽しくなるし、なにより当たりを引いたような感じがして嬉しくなるものだ。
ひやむぎの色付き麺を見ると、子ども時代の郷愁まで味わえる。
そんな副次効果も、ひやむぎにはある。
ひやむぎのアレンジ例
さてここまでは、ひやむぎ派たちの声を見てきたが、ここからはそんなひやむぎ派たちが推すアレンジ例を紹介していきたい。
もちろんひやむぎは麺つゆにねぎ・しょうがの薬味を入れるオーソドックスな食べ方でも楽しめる。
しかし長い夏をその一本鎗で通すと、家族から「またひやむぎ…?」という不満が噴出しかねない。
そこで飽き対策として、ひやむぎのアレンジ例を見ておこうというわけだ。
つけだれのアレンジ例
まずは手っ取り早くアレンジできる、ひやむぎのつけだれのバリエーションを見ていこう。
「おすすめはニラダレです」(45歳男性)
ニラダレというのは、細かく刻んだニラをしょうゆと酢ベースの調味料を混ぜ合わせ、フライパンで熱したごま油をかけて味を調えたタレのことだ。
にんにくや唐辛子なども入れると、一気に中華風の味付けとなり、スタミナ抜群のつけだれとなる。
一方で、ひやむぎをベトナム料理のフォーのように見立てたつけだれアレンジもある。
「ごま、ナンプラー、パクチー、チリソース、ラー油」(43歳女性)
チリソースの辛味がきたあとに、パクチーの鼻に抜ける風味が追いかけてきて、自宅にいながらベトナム気分を満喫できるつけだれといえる。
また意外と多かったつけだれアレンジのアイデアでは、ねばねばしたものを合わせるというアイデアがあった。
「生卵と納豆とネギをかけて食べます」(35歳女性)
「麺つゆに、ネギ、ごま、紫蘇、ミョウガ、オクラ、とろろを入れて食べます」(46歳女性)
いずれもつけだれというよりかは、ひやむぎを平皿に入れてめんつゆや薬味をぶっかけるというスタイルだ。
ひやむぎ派の中には、ただでもつるつるしているひやむぎに、さらにねばねばした薬味を入れて「つるつる感」を増し増しにする過激派もいるようだ。
ひやむぎを使ったアレンジレシピ例
つけだれのアレンジの次は、もう少し手間をかけてひやむぎのレシピ自体をアレンジするアイデアを見ていく。
お中元などで大量のひやむぎをもらい、今夏中に消費しなければならないときなどに活用していただきたい。
まずはひやむぎの「あっさり」感を、「ガッツリ」に昇華させるアイデアだ。
「ガッツリ食べたい時に作るのですが、濃縮した麺つゆをかけたひやむぎの上に、千切りキャベツを敷き詰め、その上に生姜焼きをのせて(お好みでマヨネーズもかける)食べると美味しいです」(54歳女性)
この女性のほかにも、豚肉の生姜焼きをあわせるレシピはいくつか見られ、ひやむぎとの相性のよさがうかがえる。
「トマト・キュウリ・ハム・錦糸たまご等をトッピングして中華冷麺風にして食べる」(54歳男性)
実はつけだれのところでもあがっていたのが、「ごまだれ」でひやむぎを食べるという回答者で、ごまだれだけでも冷麺にかなり近づくことになる。
また同様に、ひやむぎを焼きそばのように見立てたレシピもあった。
「食べ応えが欲しいときは、濃いめの味付けで炒めた野菜やお肉を麺の上に乗せたり、あんかけを作って乗せたりして食べると、栄養価もアップして美味しいです」(43歳女性)
ひやむぎはうどんほど主張が強くなく、そうめんほど伸びやすくないので、麺料理のレシピであれば違和感なく食べられるということになる。
ほかにも、ラーメンやフォー、ビビン冷麺などのアイデアレシピが寄せられた。
まとめ
以上が、今回ひやむぎ派の声を調査した結果だ。
今回の調査結果をおさらいしておくと、下記となる。
▼本調査の結論
・ひやむぎ派はそうめんとの違いを知ったうえで、ひやむぎを選好
・ひやむぎが推されるもっとも多い理由は「食べごたえ」
・ひやむぎは伸びにくくアレンジしやすい
思えば古来より、日本では「流しそうめん」という味とはまったく関係ない食べ方が根付いたり、「そばは噛まずに飲むのが粋」という江戸っ子の矜持のようなものがあったり、夏の麺類には強いこだわりを見せてきた。
サッと茹でて準備するのは麺つゆと薬味のみという、ファストフードより手軽に食べられるそうめんやひやむぎだが、シンプルさゆえの奥深さを感じられる調査結果となった。
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