友人や家族と食事を楽しんでいるときに、厄介なのが「ひと口ちょうだい」のひと言である。
この「ひと口ちょうだい問題」の是非は、まさに日本を二分する問題といってよく、早急に解決が待たれる事案と言っても過言ではない。
さしあたり本稿の結論を言っておくと、下記となる。
▼本調査の結論
・「ひと口ちょうだい」の常習犯は男女ともに2割程度
・「ひと口ちょうだい」と言われて不快に思う人は4割
・「ひと口ちょうだい」と言われて「なんとも思わない」人が最多
・「ひと口ちょうだい」は口をつける前のタイミングでいう
・ひと口あげたくない場合は、争点をズラしてかわす
ちなみに最初に筆者の立場を明らかにしておくと、筆者は同卓している人に「ひと口ちょうだい」とは言わないし、言われる側になるとあまり歓迎できないナシ派だ。
理由は後述するが、ナシ派の多くは「ひと口ちょうだい」と気軽にいう人からすれば予想外の理由でそれを嫌っている。
そしてまた「ひと口ちょうだい」のアリ派は予想外の理由で、それをよしとしている。
本稿では、この「ひと口ちょうだい問題」の現状を確認したうえで、アリ派・ナシ派それぞれの適切な対処法を考察していく。
最後まで読めば、アリ派・ナシ派相互の理解が深まり、両派とも手を取りあえるようになるはずだ。
「ひと口ちょうだい」を言ってしまうのは男女ともに2割
まずは誰かと食事中に「ひと口ちょうだい」と言ってしまう人はどの程度いるのだろうか?
そこで自分自身が一緒に食べている人に、「ひと口ちょうだい」と言ってしまう頻度を尋ねた。
結果、「ひと口ちょうだい」を頻繁に要求する割合は、男女ともに2割程度の回答者に止まった。
女性では24.1%、男性は17.4%が誰かと食事をしているときに「ひと口ちょうだい」とねだっている。
食事を共にすると高確率で「ちょっとそれおいしそうね!ひと口いい?」と言ってくる人は、この2割の人たちであり、あくまでマイノリティであることがわかる。
また筆者は母や妻くらいにしかこれを言われたことがないので、つい先入観で女性が多いように考えてしまっていたが、男性も女性に引けをとらない割合で「ひと口ちょうだい」とおねだりしている。
一方で普段は言わないが、一緒に食事をしている人のメニューがどうしても気になった時だけおねだりする「たまにある」の割合を含めると、女性では57.1%、男性も47.7%が「ひと口ちょうだい」経験者ということになる。
これらの「たまにある」の人たちに常習性はないものの、もの珍しいものや、あなたが格別おいしそうに食べていると、「ひと口ちょうだい」と言ってくる、いわば予備軍だ。
これら予備軍もあわせると、「ひと口ちょうだい」のアリ・ナシ問題は、まさに日本を二分する問題といえる。
またこれだけ勢力が拮抗していると、残り約半数の「ひと口ちょうだい」をいうことが「まったくない」のナシ派は、知らない人と食事をするたびに「ひと口ちょうだい」が飛んでこないかと戦々恐々しながら、日々を過ごす必要が出てくる。
これは速やかにアリ派・ナシ派の相互に理解を深める必要性がある。
では一体なぜ「ひと口ちょうだい」とおねだりする人は、ひと口だけほしいのだろうか?
「ひと口ちょうだい」を言ってしまう心理
実をいうとこの「ひと口ちょうだい」をいう人たちの心理には、いくつかのパターンが見られた。
まずもっともシンプルなのが、「他人の芝生は青く見える」という心理だ。
「他人が食べていると、おいしそうに見えてしまう」(19歳女性)
「どれを食べるか悩みに悩んで選んだけど、 悩んだもう1つの方を食べている人を見るとつい一口欲しくなります」(33歳女性)
確かにこれはナシ派の筆者でも理解できる心理で、あまりピンとくるメニューがなく、なんとなくで頼んでしまったものの、同卓している人に魅力的なメニューが運ばれてきたりすると「やられた!」となってしまう。
そこで「ひと口ちょうだい」という実力行使に及ぶかどうかは人によって異なるところだが、その行動の燃料になっている心理としては十分に理解できるところだ。
また次に多かった心理として、このようなものがあった。
「その人がおいしそうに食べているのを見て、「おいしい!」という気持ちをシェアしたいから」(25歳女性)
楽しそうにしている人たちを見ると混ざりたくなり、葬式で参列者がさめざめと涙を流していると、故人とは縁もゆかりもたいしてないのに涙がこみ上げてくる。
そうした共感を得るために、「ひと口ちょうだい」と言ってくる人もいる。
人間は社会的生物であるため、ある意味本能的ともいえる行動だが、もらった結果自分の口に合わなかったときは、気まずくなったりしないのかいささか気になるところだ。
一方でナシ派の筆者がもっとも理解できない心理が、これである。
「単純に味見したい。一口あればじゅうぶん」(43歳女性)
「色んな種類のものを少しずつ食べたいと思うから」(43歳女性)
筆者は自分が好きな食べ物だけでお腹が満たされたほうが幸福度が上がると思っているが、「ひと口ちょうだい」がアリ派の人には、このように食べるもののバリエーションを出すことで幸福度が上がると信奉している人もいる。
そしてこの手の、単に味見したい人たちに、仮にひと口をあげたとしても「ふーん」のひと言で話を終わらされてしまうことを筆者は知っている。
ひどい場合には「うわ…味付け濃いね!」などとディスってくる輩もいて、おいしく料理を堪能している筆者の気分をぶち壊してくることすらある。
このような言動が「ひと口ちょうだい」と言ってくる人の不興を買っていると考えられるが、実際のところ「ひと口ちょうだい」はどの程度嫌われているのだろうか?
次章では「ひと口ちょうだい」のマイナス面を掘り下げてみたい。
「ひと口ちょうだい」と言われたときに不快に感じる人は約4割
結論からいえば、他人の「ひと口ちょうだい」に少なからず不快感を覚える人は、男女ともに約4割の割合だった。
また不快感を覚える人よりも「なんとも思わない」と回答した人が女性では50.3%、男性では42.2%で最多となった。
「ひと口ちょうだい」への反応のマジョリティは不快感よりも、むしろ「なんとも思わない」という寛容な反応だった。
一方で、興味深いのが「かなり好感できる」と「やや好感できる」と回答した人が、女性では1割程度、男性では2割程度存在することだ。
なぜ一緒に食事をしている人からの「ひと口ちょうだい」を好感できるのか、その理由を聞いてみるとこのような回答だった。
「親しく思ってくれているのだなとうれしく感じる。食べ物を分け合うことで距離感が近くなる気がする」(55歳女性)
「食事の時にそのような会話ができることは、互いに信頼し合い、気心が知れている証なので好感がもてます」(69歳男性)
確かに民俗学のフィールドワークの基本では、現地の人たちと現地のものを食べろといわれるが、食べ物のシェアには心理的な距離を縮める副次効果があるのかもしれない。
しかし、やはり見落としてはならないのは「ひと口ちょうだい」に対して不快感を示す人も4割はいるということだ。
つまり「ひと口ちょうだい」ナシ派といえる人たちであるが、なぜナシ派の人たちは他人にひと口分の食べ物をとられることに不快感を覚えるのだろうか?
この不快感について、目を向けておきたい。
「ひと口ちょうだい」が不快に感じる理由
「ひと口ちょうだい」に対する不快感として、もっとも目立った理由はこのようなものだった。
「潔癖症気味なのでどう考えても不快そのもの。また、実際に衛生的にもよくない(経口感染など)ので信じられない行動だと思う」(50歳男性)
「人が食べたものを食べるのはイヤだからです」(42歳女性)
つまりひと口シェアする行為は衛生的ではない、という理由だ。
これは飲み物の回し飲みでも同じで、他の人が口をつけたものは生理的に受けつけないという人は一定数存在する。
そういう人からすると、「ひと口ちょうだい」は嫌がらせ以外の何物でもない。
また「ひと口ちょうだい」という行為自体ではなく、その頻度を問題視する声も目立った。
「普段あまりひと口をねだってこない人から言われるのはいいですが、しょっちゅうひと口をねだってくる人から言われると、どうせ私のを欲しがるのだから、最初から同じものを頼めばいいのにと思います」(31歳女性)
「以前 寮で一緒だったその人は、毎日のように食事を共にするときに言ってきました。二人とも同じものを食べているのにも関わらずです」(60歳女性)
頻繁に「ひと口ちょうだい」と言ってくる人は、先にも見たように2割程度しか存在しない。
しかしこの2割が身近にいると、食事をするたびに毎度「ひと口!ひと口!」とたかられる羽目になる。
少数派ではあるが、存在感はその割合よりも大きく見える。
そして最後に、筆者が個人的に「ひと口ちょうだい」をナシだと思う、もっとも強い理由を紹介しておきたい。
「料理が運ばれてきた瞬間から、どのくらいのペースでどういう順序で食べるかということを無意識に考えながら食べているので、途中でそのペースを乱されたくないから。頼む前から、あなたの料理も食べてみたいから、少し分けてくれる?と聞いてくれれば、それを前提にして頼む料理を追加するなりペース配分を変えるなりできるので、せめて事前に言ってほしい」(36歳女性)
「食べる順番やバランスなど、自分のリズムが崩れるから」(45歳女性)
これらの回答を読んだとき、筆者の「ひと口ちょうだい」に対するモヤモヤが、きれいに言語化された気がした。
筆者もほぼ無意識ではあるが、おかずと白米のバランスを見ながら、どちらか一方だけが残りすぎないように食事を進めるタイプだ。
そして中盤では酸味のあるもので箸休めをしつつ、終盤ではもっともお気に入りのおかずをひと口大の白米で追いかけて締めたいと願っている。
それなのに「ひと口ちょうだい」をやられると、それまでの配分がすべて狂ってしまう。
わかる人にはわかると思うが、そのひと口分のロスで、食事の満足度が壊滅するのだ。
これらの理由を見て、もしかしたらアリ派の方々は「よくわからない理由でイヤがるんだな」と狐につままれた気分になっているかもしれない。
しかしこれらのナシ派の声には、重大なヒントも隠れている。
どうしてもひと口欲しい時は口をつける前に言う
あなたがもし「ひと口ちょうだい」を我慢できないなら、それを伝えるタイミングに注意するのが嫌われないポイントだ。
つまり、誰も口をつけていない状態で先手を打って「ひと口ちょうだい」と言うのだ。
誰も口をつけていない食事を、口をつけていない箸やスプーンでとるのであれば、衛生観念的にイヤがる人からも納得が得られる。
また筆者のように食事の流れやペース配分が乱れることを嫌う人も、まだ口をつけていない段階であれば、「最初からこの量だと思えばいい」と納得することができる。
実際に「ひと口ちょうだい」と言われるタイミングによっては不快に思わないという回答も見られた。
「注文時から、メニューを決めかねている話があり、一口欲しいとあらかじめ言われていた場合は何とも思わないです」(44歳女性)
ただし、これでナシ派全員の納得を得られるわけではなく、このような理由からイヤがる人もいる。
「目の前の料理は自分の領域という意識が高いので、ひと口ちょうだいと言われると侵略された気分になるのがイヤです」(48歳男性)
「自分でお金を払うものであれば、自分のものは自分で独占して食べたいと思うから」(25歳女性)
つまり、自分がお金を払って食べているものを、横からくちばしを突っ込んできて、ひと口奪い去っていくフリーライダー(タダ乗り)的な振る舞いが許せないとする向きだ。
ただこういう人は何をどうやってもねだられること自体をイヤがるので、ひと口分の料理と引き換えに嫌われることを覚悟するしかない。
あなたが相対している相手がどのタイプのナシ派かは見極める必要があるが、ナシ派でもタイミングによっては快く応じてくれることもあるということは、覚えておくべきだろう。
ひと口ちょうだいを言われたときのうまい断り方
それでは最後にナシ派の人は「ひと口ちょうだい」に対して、どのような対処をとっていけばいいのか?を見ることにしよう。
活論からいえば、「ひと口ちょうだい」は断ってしまっても問題ない。
というのも、「ひと口ちょうだい」を跳ね返したとしても、悪い印象を覚える人は38.3%しかいないからだ。
頻繁に「ひと口ちょうだい」をやる人に、「断られたらケチだと思うか?」と問うた結果が下図だ。
ナシ派の目線からすれば、タダでもらおうとしているくせに、あげなかったらケチ呼ばわりとは盗っ人猛々しいとしか思えないが、アリ派にも「ひと口くらい減ったからなにさ?」という思いがあるのだろう。
それでも6割以上の人がケチだとは「あまり思わない」「まったく思わない」と回答しており、上回っている。
当然といえば当然だが、「ひと口ちょうだい」と言っている当人は「もらえたらラッキー」くらいの軽い心構えで言っている人が多いことが想像できる。
では具体的になんと言って「ひと口ちょうだい」をかわすのがいいのだろうか?
「相手にズバッと「自分が食べたいからあげられない」と言う」(18歳男性)
もちろんこのように直球で断れる人は、まったく気を病む必要はない。
実際に断っても「ケチだなぁ」と思われるリスクはさほど高くないので、突っぱねてしまうのが一番シンプルだ。
だが、ナシ派の全員がこのやり方でズバっと解決できるとは到底思えない。
「他人の口をつけた物を食べるのがイヤだと答えて、潔癖症だと思ってもらえるように振舞うのが安全で適切だと思います」(28歳男性)
というアイデアもあったが、変に「気難しい潔癖キャラ」の色がついてしまうのを望まない人もいるだろう。
なにより多くのナシ派が求めているのは、断ったあとに険悪にならないうまい断り方だ。
そこで次章では具体的な断り方を見ていくことにしよう。
具体例で学ぶ「ひと口ちょうだい」の断り方
まずひとつ目のうまい断り方は、妥協案を示して争点をズラし、諦めてもらう方法だ。
具体的にはこのようなやり方になる。
「「他のものをあげるよ」と別の提案をします。そこまで言われると、さすがに相手もこれ以上厚かましいことはできないと思います」(39歳男性)
「あげてもいいところを指定する」(43歳女性)
先ほど見たように「ひと口ちょうだい」と言ってくる人の半分以上は、「ケチじゃないなら、当然くれるよね?」と強気に来ているわけではなく、やや負い目を感じながら言ってきている。
自分は1円も払っていないのに、タダでもらおうとしているわけで、当然といえば当然である。
そこで例えばハンバーグを求められても、「こっちのプチトマトだったらあげる」と争点をすり替えてしまえば、それ以上追及できずに引き下がってくる公算が高い。
それでいて「分けてあげた」という既成事実は作れるわけで、ちょっとした恩まで売れることになる。
もし料理の中にあまり好きじゃない食材が含まれているときは、積極的に論点をすり替えていくことがおすすめだ。
またすり替えられるのはメニューだけではない。
このようにひと口あげるタイミングを、ズラす手もある。
「食べきれなかったらあげるねと言っておいて、「うっかり食べちゃった」と食べ終わった後に言う」(31歳女性)
「ひと口ちょうだい」という要望は、なにも今すぐ応えてあげる必要はない。
自分が満足してから残ったものをあげてもいいし、そのまま食べきって話を流してしまうこともできる。
相手が10を要求してきたらそのまま鵜呑みにはせず、「10は無理だが3なら飲んでもいい」と双方の妥協点を探っていく、まさに交渉で活路を見出す方法だ。
ただ「どうしても交渉は苦手…」という慎ましい方もいるかもしれない。
そんな方にもワイルドカード的に使えるのが、この一手だ。
「今風邪が治りかけでもしうつしたら申し訳ないからごめんね、と嘘を軽くつくのがいいと思います」(23歳女性)
ポイントは「治りかけ」とか「2日前まで風邪をひいていた」など、現在はほぼ回復していることを匂わせることだ。
これを「いま風邪気味だから」などと言ってしまうと、その日一日「あれ?風邪気味じゃなかったっけ?」「え?風邪気味ならやめたほうがいいんじゃない?」などと、こすられ続ける羽目になってしまう。
またガチのアリ派なら「別に風邪とか気にしないからいいよ!」などと強引に押し通そうとしてくるかもしれないが、「いやいやいや…」とお茶を濁しておけば逃げおおせる公算が高い。
まとめ
以上が今回「ひと口ちょうだい」に関して調査したレポートだ。
最後におさらいがてら本調査の結論を再掲しておく。
▼本調査の結論
・「ひと口ちょうだい」の常習犯は男女ともに2割程度
・「ひと口ちょうだい」と言われて不快に思う人は4割
・「ひと口ちょうだい」と言われて「なんとも思わない」人が最多
・「ひと口ちょうだい」は口をつける前のタイミングでいう
・ひと口あげたくない場合は、争点をズラしてかわす
「ひと口ちょうだい」は、スムーズにおねだりが成功するのと、不興を買う確率はほぼ半々の行為だ。
ただ「ひと口ちょうだい」を頻繁に言ってしまう人も、言われてイヤな気分に陥ってしまう人も、お互いに悪意から発せられるものではない。
ぜひ今回の調査結果を参考に、アリ派・ナシ派の双方の理解を深め、不要なトラブルに発展しないように立ち回っていただきたい。
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