野球選手がつけている目の下の黒いシール、プロ野球などを観戦しているとかなり気になる存在だ。
なんていう名前で、一体なんのためにつけているのか?
本稿ではそうした疑問に答えるべく、実際に使用したことがある全国の男女51名の回答をもとに、アンケート調査した結果を報告していく。
いきなりだが本調査の結論は、このようになる。
▼本稿の結論
・野球選手の目の下の黒いシールはアイブラックのこと
・アイブラックを使用している選手は野球にストイックな人
・アイブラックのまぶしさ軽減効果を感じている選手は意外と多い
・アイブラックとサングラスならサングラスを選ぶ人がやや優勢
本稿を読み終えるころには、野球選手の目の下の黒いシールが一体なんなのか?が正しく理解できるだけでなく、使用した者だからわかるメリットやデメリットも理解できる。
それでは早速、野球選手がつけている目の下の黒いシールの謎に迫っていこう。
野球選手の目の下の黒いシールは「アイブラック」のこと
まず野球選手が目の下につけている黒いシールは、アイブラックというグッズだ。
もちろん寝不足で目の下に色濃いクマができているわけではない。
本稿の前提ともなる情報なので、まずはこのグッズについて軽く説明しておきたい。
このアイブラックは、米国の野球選手やアメリカンフットボールの選手がつけ始めたのが起源とされ、日本でもプロ野球界でも使用している選手を見ることができる。
シールで目の下に貼るものもあるが、塗るタイプのアイブラックもあり、どちらのタイプも比較的安価で購入することができる。
▼シールタイプのアイブラック例 久保田スラッガー アイブラック アイパル 三角タイプ 810円 画像引用元:Amazon | |
▼塗るタイプのアイブラック例 ローリングス アイブラック 961円 画像引用元:Amazon |
アイブラックを目の下につけることで得られる効果は、フライ等で高く上がったボールを見る際に、太陽光やスタジアムの電光の「まぶしさが軽減される」という点だ。
このアイブラックの効果面については、実際のアイブラック使用者の調査結果に基づいてあとで詳しく述べることにして、次の章ではもっとも気になるところに答えを出すことにしよう。
アイブラックを使用している人はむしろ野球にストイックな人
結論からいえば、アイブラックを使用している野球選手は、かなり野球に対してストイックな人ということができる。
アイブラックを使用している野球選手を見ると、まるでファッションのようにカッコつけているように見えたり、「オレはほかの選手とは違うんだぜ!」とイキっているように見えるかもしれない。
しかし実際はまったく逆で、むしろアイブラックをつけているのは、守備でエラーをしてチームに迷惑をかけまいとするひたむきな態度と見るべきだ。
まずアイブラックを野球の試合中に使用したことがある51人に、なぜアイブラックをつけていたのか?を問うた結果が下図だ。
群を抜いて多かったのが「まぶしさ対策」という理由で、実に68.6%もの多数を占めた。
実際の回答者の声を紹介すると、このようなものが多かった。
「眩しいため。サングラスだと距離感がわからなかったのでアイブラックをつけました」(32歳男性、社会人野球時代に使用)
「太陽の光などでボールが見づらいと感じていて使用していました。キャッチャーだったので「まぶしくて取れませんでした」じゃ、シャレにならなかったんです」(39歳男性、高校生のときに使用)
このように野球選手が目の下にアイブラックを塗ったり貼ったりするのは、かなり実用的な理由が多いことがわかる。
さらにいうと、後者の男性回答者の言葉からもややニュアンスがうかがえるが「本当はアイブラックなんてつけたくないんだけど…」という人が実は結構多い。
この点については、アイブラックのデメリットの章で詳しく説明するが、ここでは「できればアイブラックをつけたくないけど、実用的なメリットが大きいからつけている」選手が多いということを押さえておいていただきたい。
一方で、ほかのアイブラックを使用する理由にも目を向けてみると、やっぱりいる…。
「かっこいいから」(19.6%)という、「もしかしてイキってるだけなんじゃないの?」という我々の懸念をそのまま体現した選手たちだ。
実際の回答者の声は、こんなところだ。
「目立ちたかったから」(43歳男性、草野球時に使用)
「アイブラックではないですが、黒色の絵の具を塗ってました。ホントの理由は近鉄の選手が、目の下を黒く塗っていたのが格好よく見えて、真似していただけです」(53歳男性、小中学生時代に使用)
この「かっこいいから」という理由を挙げた多くの者は、憧れのプロ野球選手が使用していたからという人が多かった。
ただし、あくまで全体の2割程度の割合なので、アイブラックを使用している人の大半はカッコをつける目的ではないことを強調しておきたい。
ちなみに「監督やチームメイトからのすすめ」(11.8%)という理由もまた、実用的な理由だ。
「監督からの強制」(34歳男性、小中学生時代に使用)
野球部の監督といえば部員からすれば絶対神のような存在なので、つけろと言われたらつける以外の選択肢はない。
フライの捕球エラーをしてしまったのか、経緯は想像するしかないが、アイブラックをつける理由の中ではもっとも止むに止まれぬ事情と言える
ここまで見てきたように、アイブラックをつける選手たちのもっとも多い理由は「まぶしさの軽減」という実用的な理由だった。
そこで気になるのが、本当に目の下に黒色のシールを貼ったり、黒い塗料を塗るだけでまぶしさは軽減されるのだろうか?
筆者もわずかな期間だが、草野球で外野を守っていたことがあるのでわかるが、特に真夏の太陽を見上げたときのまぶしさはハンパじゃない。
まぶしいを通り越して、涙が溢れてくるのだ。
あの目の玉を焼きにくるような猛烈な太陽のまぶしさに、アイブラックのような簡素な装備で立ち向かえるのか?
次章ではその点を深掘りすることにしよう。
アイブラック使用者の多くが効果を感じている
結論からいえば、実際のアイブラックの使用経験がある51人の回答を見ると、アイブラックの効果を実感している者は多かった。
使用経験のない筆者からすれば、かなり意外な結果だが、以下詳しく見ていくことにする。
78.4%がまぶしさの軽減を少なからず感じている
まず使用経験がある78.4%が、アイブラックを使用することでまぶしさが少なからず軽減されたと答えている。
詳細を見ると、まぶしさの軽減効果を「かなり感じた」(11.8%)と「やや感じた」(66.7%)を合わせて7割越えとなっている。
ただし「やや感じた」という層が圧倒的に多いことから、あからさまにまぶしさがなくなるほどの強烈な効果まではないことが想像できる。
ではアイブラックを使用することで、一体どのくらいのまぶしさの軽減効果が得られるのだろうか?
そこでサングラスのまぶしさ軽減効果を「10」としたときに、アイブラックの軽減効果を数字で答えてもらった結果が下図だ。
最頻値は「6~7ポイント」の27.5%、また全体の回答した数値を平均すると「6.7ポイント」だった。
どうやらサングラスが10なら、アイブラックはその6~7割程度のまぶしさが軽減されると考えるのが自然なようだ。
思っている以上に、アイブラックのまぶしさ軽減効果は強いようだ。
一方で、「6~7ポイント」に次いで多かったのが「2~3ポイント」と回答した層で、こちらはサングラスと比べたときにかなり微弱な効果しか感じられなかったことがわかる。
またサングラス以上のまぶしさ軽減効果を感じた人は、わずか2.0%だった。
このことからアイブラックのまぶしさ軽減効果は、効果を感じやすい人と感じにくい人の個人差がかなりあるようだ。
しがしながら多くの野球選手にとって、「サングラスほどではないけど、つけているとまぶしさは確かに減る」というくらいの効果と言える。
54.9%が守備でのエラーの減少を感じている
そもそも野球選手がアイブラックをつけるのは、守備でフライ等を捕球する際に、まぶしさからのエラーを減らしたいという目的があるからだ。
ではアイブラックを使用することで、肝心の守備時のエラーは減ったのか?
結果は、半数以上の回答者が守備エラーの減少を感じていることがわかった。
アイブラックを使用することで守備エラーが「かなり減った」(11.8%)、「やや減った」(43.1%)と、合わせて54.9%もの選手がエラーの減少を感じている。
裏を返せば、それだけ太陽光やライトの光が、いかにフライの捕球を難しくしているのかがうかがえる結果だ。
確かにプロ野球でさえ、なんでもない内野フライを落球し安打になるシーンが見られるわけで、プロ野球選手が試合にアイブラックを使用する理由もうなずける。
確かにサングラスのように劇的にまぶしさをなくしてくれる効果は、アイブラックにはないかもしれない。
だが少しでもプラスの効果があるなら、変にすっぴんにこだわって勝負し続けるよりもアイブラックをつけたほうが得といえる。
では、一方でアイブラックをつけるデメリットはあるのだろうか?
次章では、このアイブラックのデメリット面を検討していく。
アイブラックのデメリットは「見た目がダサい」が最多
アイブラックの使用経験がある回答者に、そのデメリットを回答したもらったところ下図となった。
まずもっとも多かったアイブラックのデメリットは、「見た目がダサい」(31.4%)というものだった。
具体的に回答者の言葉を紹介すると、このようなものだ。
「見た目が、目の下にできるクマみたいでカッコよくないところはデメリットだと感じています」(40歳男性、社会人野球時に使用)
「ぶっちゃけ日本人には似合わないので、つけるとダサい」(19歳男性、高校生時に使用)
先ほど見たように、憧れのプロ野球選手を真似てアイブラックを使用する者が2割いたが、それを圧倒的に上回る割合が、アイブラックを「ダサい」と評価している。
このあたりの美意識は意見がわかれるところだが、筆者は「ちょっとカッコいい」と思っている。
なにより見た目に強者感が出るので、打席に入ったらいかにも打ちそうな雰囲気がにじみ出そうなのがいい。
ただここで大事なのは、アイブラックをつけている選手たちは見た目ダサさよりも、まぶしさ軽減という実用性をとっているという点である。
これからも「アイブラックをつけている人は、野球にストイックな人」という見方を補強する材料のひとつとなる。
次いで多かったデメリットは、「使用感が悪い」(21.6%)、「面倒くさい」(21.6%)が続いた。
これらのデメリットは重なっている点もあるので、実際の回答をまとめて紹介する。
「野球の試合が終わってから、すぐにどこかへ行けない」(36歳男性、草野球時に使用)
「汗でシールがずれることがある」(40歳男性、草野球時に使用)
「日差しの強い日にアイブラックをつけて試合をすると、日焼けあとが気になることがある」(48歳男性、草野球時に使用)
まず塗るタイプのアイブラックのデメリットとして、もっとも多かったものは「落ちにくい」という声だった。
確かにもしアイブラックが簡単に水洗いして落ちるなら、試合中に黒い涙のような液体がドロドロと垂れてくることになり、ちょっとやそっとじゃ落ちない仕様になっているのはうなずける。
一方で、シールタイプのアイブラックは、ズレや目の下につけたときの違和感を挙げる声が多かった。
確かに目の下に違和感を覚えつつ、いつもとは見え方がやや違う飛球を追うことになるわけで、慣れるまでは戸惑いを感じるようだ。
いずれにせよ、これら「見た目がダサい」と「使用感が悪い」というふたつのデメリットが半数を占めることになるが、実をいうとアイブラックのデメリットはこれだけではない。
以下、ほかのデメリットにも目を向けてみよう。
アイブラックを使用してもモテ度は上がらない
これまで見てきたように、アイブラックを使用する目的はかなりストイックなもので、まぶしさによる守備エラーを減らしたいという切実なものが大多数だ。
しかしながら本調査においても、2割の利用者には「目立ちたい」「カッコいい」という浮かれた理由で使用しているものが見られた。
確かに剣道男子やアメフト男子など、防具によって顔が隠れることで女子側の目にいい感じで補正がかかり、カッコよく見えるという効果がある。
アイブラックも目の下という素顔の一部を隠すことになるわけで、「アイブラック補正」が生じる可能性が考えられる。
では、この2割の者たちの思惑である「アイブラックを使用するとモテ度は上がるのか?」を調べることにした。
結果は、惨敗といえるものだった。
モテ度が「かなり上がった」(2.0%)、「やや上がった」(5.9%)と合わせても、わずか7.9%しかアイブラックを使用することでのモテ度の向上を感じていない。
実に90%以上は、アイブラックによるモテ効果を実感することはなかった。
女子目線からすれば、アイブラックは「なにあれ…メイク…??」という感想しか喚起できないらしい。
逆にモテ度がいささかでも上がったと回答したこの7.9%はなんなんだ?という話になるが、もしかするとごく少数のマニアックな女子にはアイブラック補正効果が発生するのかもしれない。
いずれにせよ、大きく見るとアイブラックをつけてもモテ度が上がることはないので、モテ目的でアイブラックを使用するのは徒労に終わる公算が高い。
アイブラックよりサングラスが選ばれがち
最後にアイブラックの使用経験者に、サングラスもアイブラックもどちらももっているなら、どちらを使えるのか?を問うた。
その結果、「サングラスを使用する」と回答したものが41.2%と最多となり、アイブラックを選好した割合(29.4%)を上回った。
アイブラックよりもサングラスを選んだ理由を回答者に聞くと、このような理由になった。
「サングラスの方が遮光性が高いため」(35歳男性、小中学生時代にアイブラックを使用)
「メジャーリーガーみたいでかっこいいから」(32歳男性、高校時代にアイブラックを使用)
「外野の守備でフライをキャッチする際には、直射日光の眩しさを確実に避けることができるから」(52歳男性、草野球でアイブラックを使用)
このようにアイブラック使用経験者から、アイブラックの存在意義を完全否定されるような声が相次いだ。
確かに先ほど見たように、サングラスのまぶしさ軽減性能を10とすれば、アイブラックのそれは6~7割しかなかった。
わざわざ試合で3~4割の遮光性能の不利を背負うくらいなら、10のサングラスをとりたいという当然ともいえる向きだ。
一方で、遮光性が高いサングラスよりもあえてアイブラックを選ぶという回答者には、このような声があった。
「サングラスはズレるので邪魔になる」(25歳男性、大学生時代にアイブラックを使用)
「サングラスだと暗すぎで打球判断が遅くなりますし、動くとサングラスが外れてしまうことがあったりするので、アイブラックの方が安心して守備をすることができると感じています」(40歳男性、社会人野球時代にアイブラックを使用)
「サングラスだと立体感がつかみにくいため」(41歳男性、草野球時にアイブラックを使用)
アイブラック派のいずれも納得できる理由となった。
つまりこのサングラスかアイブラックか論争は、その人がしっくりくるほうを選ぶのがよいという結論になる。
ちなみに17.6%という少数派ではあるが、サングラスだけでは飽き足らずアイブラックも併用するというある意味両刀使いも存在する。
「どちらも効果はあると思うので使える道具はなるべく使うという発想で両方利用したい」(27歳男性、草野球時にアイブラックを使用)
サングラスとアイブラックを併用して野球をしている人を筆者は見たことがないが、絶対に負けられない試合にはこうした完全武装で臨むのも悪くない。
多くの人がアイブラックを使用できるのは草野球
さてここまでアイブラックのメリットやデメリットを見てきたが、もしかするとアイブラックを自身も導入したいと感じた方もいるかもしれない。
しかしながら、2024年時点での日本の野球界隈で、多くの人がアイブラックを使用できるシーンは現実的に「草野球」くらいしかない。
実際に今回の回答者51人に、アイブラックを使用していた時期を聞いたところ、52.9%もの回答者が「草野球」と回答した。
たとえば全日本大学野球連盟の大学野球のルールによると、アイブラックの使用は明確に禁止されている。
「(12)アイブラック(アイパッチ) アイブラック(アイパッチ)の使用を認めない。また、それに準ずるものを目の下に塗ることも認めない。」
また高校野球やボーイズリーグの規則でもアイブラックに関する明確な記載はない。
だがサングラスを使用する際には審判に事前に許可をとるように書かれているため、アイブラックも同様に審判に許可をとる必要があると考えられる。
そのため学生の選手にとってアイブラックを公式な試合で使用するのはハードルがあり、好き勝手につけていいわけではないので注意が必要だ。
一方でサングラスの着用は選手保護の観点から、徐々に学生の野球界でも認められてきており、これにともなって甲子園でアイブラックをつけた選手も今後見られるようになる可能性はある。
いずれにせよ、2024年でアイブラックは限定的なシーンでしか使用することはできないので、使用する際にはルール確認と審判に事前に相談しておくことをおすすめする。
まとめ
以上が、野球選手の目下の黒いシール(アイブラック)に関して調査した結果だ。
本稿の結論をおさらいしておくと、下記になる。
▼本稿の結論
・野球選手の目の下の黒いシールはアイブラックのこと
・アイブラックを使用している選手は野球にストイックな人
・アイブラックのまぶしさ軽減効果を感じている選手は意外と多い
・アイブラックとサングラスならサングラスを選ぶ人がやや優勢
今回見てきたように、アイブラックはサングラスと同様にまぶしさを軽減させる効果をもつグッズだ。
レンズを通してみるサングラスよりも、打球の距離感がつかみやすいなど、アイブラックならではの利点を感じて愛好している選手も少なくはない。
ぜひ野球をする機会があったら、アイブラックを一度は試してみていただきたい。
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