「広島県民に広島焼きというと怒る」
一見するといかにもな噂であるが、調べてみるとあながち大げさなウソとして切り捨てられない一面が見つかった。
実際のところ、今日この瞬間にも広島焼きという呼称に対する広島県民のイラだちや不快感は繰り返され続けている。
公平・公正な社会の実現のためにも、この広島で食されているお好み焼きの呼称を適切に定めることは。火急の用件と言える。
本稿では、広島県民のみならず大阪府民にまで調査協力をいただきながら、「広島焼き」というお好み焼きの呼び方が、いかに不適切なのかを明らかにする。
▼本調査の結論
・広島焼きという呼称は広島県民の大多数から違和感
・通常時は「お好み焼き」という呼称を使い、区別するときのみ「広島のお好み焼き」が適切
・「広島風お好み焼き」という呼称も、半数から違和感
・関西発祥のお好み焼きも、通常時は「お好み焼き」、区別するときは「大阪のお好み焼きまたは関西のお好み焼き」
そのうえで、広島県民も大阪府民も納得できるお好み焼きの呼び分けについても提言しておきたい。
【結論】広島焼きではなく「お好み焼き」と言うべき
まず最初に結論から始めると、本稿では広島発祥のお好み焼きの呼称として下記を推奨する。
▼広島発祥のお好み焼きの呼称
・単に「お好み焼き」でよい
・関西発祥のお好み焼きと区別したいときは「広島のお好み焼き」
この呼称が、広島発祥のお好み焼きの呼称としてもっとも適切と考える。
先立っていうと、広島県民に広島焼きといっても怒られることはまれだが、広島焼きという呼称はやはり使うべきではない。
広島発祥のお好み焼きも、関西発祥のお好み焼きも、単に「お好み焼き」と呼べばいいというわけだ。
また区別したいときに「広島風のお好み焼き」という呼称を推奨している記事も見られたが、これもあまり広島県民の半数はさほどしっくりきておらず、適切とは言えない。
どうしても関西発祥のお好み焼きと区別する必要があるときは、「広島のお好み焼き」というよりほかない。
もちろんこれは関西発祥のお好み焼きにおいても同じで、どうしても呼び分ける必要があるなら「関西のお好み焼き」と呼び分けることが適切だ。
なぜこの結論に至ったのか?をこれからご覧いただくが、本稿は区別が必要ないなら「お好み焼き」、区別をつけるときは「広島のお好み焼き」の呼称に着地するので、そのつもりで読み進めていただきたい。
一見すると極端な結論と感じるかもしれないが、呼称がお好み焼きより錯乱している事例はいくつも見つかる。
中でも「雑煮」にいたっては、関西と広島で異なるどころか、日本各地で出てくるものが異なる。
それでも雑煮は、雑煮としか呼ばない。
発祥した土地によって呼称をわけたくなるが、あえて「お好み焼き」一本で押し通すのがその土地や食文化に対する最大のリスペクトというものだ。
広島県民の7割は「広島焼き」という語に違和感
まずはじめに広島県民ではない人たちが、当たり前のように使用している「広島焼き」という呼称がいかに不適切な呼称であるかを確認していこう。
実に7割もの広島県民が、「広島焼き」という呼称に、少なからず違和感を感じている。
この違和感の理由として、広島県民の声を紹介するとこのようなものが目立った。
「私自身はお好み焼きといえば、広島のお好み焼きしか思い浮かびません」(72歳男性、広島市)
「広島焼きと言われるのは、広島が火事などで焼かれているような感じがして、私は好きではありません」(39歳女性、廿日市市)
そもそも広島県民にとってのお好み焼きとは、例の麺が入ったお好み焼きのことであり、語の定義からしてそうなっている。
そのため関西発祥のお好み焼きが「関西焼き」と呼ばれている違和感と、同じ違和感を感じることになってしまう。
それを裏付けるかのように、広島県民は「広島焼き」という言葉を使うのか?を問うた結果が下図だ。
実に74.5%もの広島県民が、「広島焼き」という語を「まったく使わない」と回答している。
理由は言うまでもなく、「お好み焼き」と呼んでいるからにほかならない。
またこうした語の定義からの違いには世代差があるのかと思い、上記の回答を年齢層別に集計し直した結果が下図だ。
広島県民のどの世代においても、「広島焼き」という呼称に違和感を感じる人が6~7割を占めている。
つまり広島県民の大多数にとって、お好み焼きと言えばはあくまであの麺が入ったお好み焼きのことを指すことがわかる。
広島焼きは怒られはしないが約半数から「訂正」される
こうした「広島焼き」への違和感から、過去に広島のお好み焼きのことを「広島焼き」という呼称でレシピを解説していた某テレビ番組に苦情が殺到するという事件があった。
このことから「広島県民に広島焼きというと怒る」というイメージが形成されてしまったようだ。
だが本当に広島県民は、広島焼きという語に怒りを覚えるのだろうか?そのあたりを広島県民に聞いてみた。
「強い怒りを覚える」(9.1%)と「少しイラっとする」(10.9%)のあわせて約1割は少なからず怒りを覚えるようだが、さすがに怒られる可能性は低くとどまった。
ただし見落としてはならないのが、「怒りはしないが訂正したくなる」人の割合が40.0%もいるところだ。
少なからず怒りを覚える人と、訂正したくなる人を合わせると、合計で5割ほど占めるので、広島県民の前で「広島焼き」などとうっかり口走ろうものなら、2回に1回の割合でイラっとされるか、「広島焼きってなに?お好み焼きでしょ!」と訂正されることになる。
これはあなたが考えている以上に、多い割合ではないだろうか?
いずれにせよ広島県民を前にして、あえて「広島焼き」で押し通すメリットはどこにもないので、素直にお好み焼きと言っておくに越したことはない。
広島県民による関西発祥のお好み焼きの呼称はややバラつく
ところでここまでの話で、重大な問題が1点浮上したことになる。
それは広島県民にとってお好み焼きは麺の入った広島のお好み焼きであるならば、広島の人たちは関西を発祥とするお好み焼きのことをなんと言っているのか?という問題だ。
「お好み焼き」の座に広島のお好み焼きが鎮座しているのなら、関西のお好み焼きはどういう呼称で呼ばれているのか?
この点を広島県民に聞いてみると、呼称は「関西風お好み焼き」が過半数となったが、半数近くはややバラつきが見られることがわかった。
▼広島県民による関西のお好み焼きの呼称一覧
関西風お好み焼き | 54.5% |
---|---|
お好み焼き | 21.8% |
関西焼き | 5.5% |
もんじゃ焼き | 3.6% |
大阪風お好み焼き | 3.6% |
モダン焼き | 1.8% |
一銭焼き | 1.8% |
関東のやつ | 1.8% |
混ぜてない関西のお好み焼き | 1.8% |
神戸風お好み焼き | 1.8% |
冷凍のお好み焼き | 1.8% |
広島県民の半数が使う「関西のお好み焼き」という呼称以外に目を転じてみると、「お好み焼き」(21.8%)という呼称で、特に区別しない人もそれなりにいる。
しかしそれ以外は、関西人にとって目を覆いたくなるような呼称が散見された。
「関西焼き」(5.5%)なんかは、広島焼きと言われたことへの当てこすりに感じなくもない呼称であるし、「もんじゃ焼き」(3.6%)はお好み焼きとは似て非なるものだ。
また「モダン焼き」(1.8%)は関西のお好み焼きに麺を入れたものだが、広島焼きとは微妙に異なるし、そもそも関西だとお好み焼きは麺なしで食すことのほうが多い。
「関東のやつ」(1.8%)や「冷凍のお好み焼き」(1.8%)などは、もはや関西人にとっては蔑称や煽りと受け取られてもしょうがないような呼び方である。
ここまでの話を整理すると、「広島焼き」という呼称は広島県民に違和感を感じさせてしまう呼称なので、やはり「お好み焼き」と言うのがふさわしい。
また呼び分ける必要があったときに「関西風のお好み焼き」という呼称が主流といえる。
しかしこれには黙っていない勢力が出現する。
――大阪府民である。
次章では、いったん広島県民から大阪府民に目を転じて、大阪府民の意見に耳を傾けたい。
広島県民の関西のお好み焼きの呼称に大阪府民は反発
大阪府民の代表的な声をまとめると、「お好み焼き」はあくまで関西のお好み焼きだけのことを指す、ということになる。
実際の大阪府民の声を紹介すると、このようなものだ。
「大阪のお好み焼きこそが「お好み焼き」と思ってるので、関西風とかつけられるとイラッとします。関西焼とかあり得ないし、お好み焼きはもんじゃ焼きではないので間違ってるよって思ってムカつくかも」(41歳女性、大阪府民)
関西人特有のエスノセントリズム(自文化中心主義)丸出しの声であるが、関西人の思いは、多かれ少なかれこの女性の声に集約されていると言っても過言ではない。
広島県民が関西のお好み焼きに使う呼称を、大阪府民に見てもらった結果が下図で、大阪府民からのツッコミが入りまくる結果となった。
「関西焼き」は70.2%近く、「もんじゃ焼き」は93.0%、一見すると無難そうな「関西風お好み焼き」でさえ、半数以上の大阪府民から怒りやツッコミの標的となる。
なぜ「関西風お好み焼き」という呼称までもがダメなのかを、大阪府民に言わせるとこのようになる。
「地域限定食っぽく呼ばないでほしいです。関西のお好み焼きこそお好み焼きのスタンダードだと思っているので、「関西風」なんて付けないでほしいです」(51歳女性、大阪府民)
一見すると自文化中心主義的な声のように聞こえるかもしれないが、この女性の声にも一理ある。
「関西のお好み焼きは全国区であり、東京に行っても名古屋に行っても、お好み焼きを頼めば出てくるのは関西のお好み焼きではないか?全国的に普及しているものを、なぜわざわざローカルなものとして扱う必要があるのか?」
という点だ。
さらにいうと、この「広島風お好み焼き」「大阪風お好み焼き」という「○○風」をつける呼称は、広島県民からも支持されているとは言い難い。
広島県民の半数近くが、この「広島風お好み焼き」という呼称に違和感を感じている。
さらに言うと当の広島県民からも、「関西風お好み焼き」という呼称が使われることへの同情も示されている。
「大阪でも、大阪風お好み焼きと呼ばれるのは嫌だと思う」(51歳男性、広島市)
つまりは、どうやっても広島県民も大阪府民も「お好み焼き」以外の呼称は受け入れがたいという結論に行きついてしまう。
さらにいうと「○○風」という、一見すると無難な呼称も双方から受けがよくないことまで判明した。
では、どうしても広島と大阪のお好み焼きを区別する必要があるときは、なんと呼びわけるのが適切なのだろうか?
区別をつけたいときは「広島のお好み焼き」と「関西のお好み焼き」
結論をいえば、どうしてもこの両者を呼び分ける必要がある場合は、下記の呼称が適切と考える。
・広島→広島のお好み焼き
・大阪→大阪のお好み焼き、または関西のお好み焼き
簡単にこれまでの話の経緯を整理しておこう。
広島県民も大阪府民も、自分たちが愛する「お好み焼き」をそれ以外の呼称で呼ばれることは心苦しいことだ。
「広島のものはお好み焼きでよい。 関西は関西風で」(51歳男性、呉市)
「お好み焼きの発祥は関西、大阪なので大阪はお好み焼き、広島は広島焼きでいいと思う」(30歳女性、大阪府民)
しかしこのようにお互いが譲ることを求め合っても、話は平行線になるばかりで、あとは拳で語り合うしか方法がなくなってしまう。
我々はあくまでこのようなエスノセントリズム(自文化中心主義)に陥ることなく、かつ双方の食文化をリスペクトした妥協点を模索しなければならない。
そのとき「○○風お好み焼き」と呼び分けるのは、双方から反発が見られたのでふさわしくないことは先に確認した。
実をいうと、この広島と大阪のお好み焼きの呼び分け問題に関して、双方から多様なアイデアが寄せられた。
「広島・・・広島風お好み焼き、大阪・・・たこ焼き風お好み焼き」(43歳女性、大阪府民)
「広島のお好み焼きはキャベツ焼き、大阪のお好み焼きは粉玉焼きと言えばどうでしょう?」(38歳女性、大阪府民)
「〇〇(県名)版お好み焼きで統一する」(45歳男性、広島県民)
このように面白いアイデアも散見されたが、本稿ではこれらの意見に着目することにした。
「広島のお好み焼きとかと大阪のお好み焼きとか、「どこどこの」と地名をつけるしかないと感じました。そのほうがあまりイラっとしないですむ気がします」(36歳女性、大阪府民)
「○○風」という言葉を使うとイラッとするので、広島のお好み焼きと関西のお好み焼きで呼ぶといいと思います(22歳女性、広島県民)
「関西「風」と言われると、大阪や関西の人が作ったお好み焼きではないように感じるから、呼び分けが必要な時だけ「広島の」「大阪の」を付けるのがいいと思う」(40歳男性)
「○○風お好み焼き」という呼び分けがしっくりこない最大の理由、それは「○○風ということは、実際はちょっと違うんだな」と感じてしまう語感だ。
つまり「ヨーロッパの家具」と「ヨーロッパ風の家具」の違いを考えれば、わかりやすい。。
「ヨーロッパの家具」と言われれば、ヨーロッパで作られたり、実際によく使われている家具という語感になる。
だが「ヨーロッパ風の家具」と言われると、あたかもヨーロッパで作られている家具に似せて作ったものという語感になってしまう。
「広島風お好み焼き」や「関西風お好み焼き」という呼称に対する違和感の本質は、これではないだろうか?
我々が指したいのは、広島や大阪で作られているお好み焼きに似せたものではなく、広島や大阪で作られているお好み焼きそのものなのだ。
「広島風お好み焼き」と「広島のお好み焼き」、または「関西風お好み焼き」と「関西のお好み焼き」。
たった1文字の繊細な違いではあるが、しっくり来たのではないだろうか。
そのためお好み焼きを、広島のものと関西のものを呼び分けるには「広島のお好み焼き/大阪のお好み焼き」という呼称を用いるのが適切となる。
まとめ
以上が広島焼きという呼称に端を発する、もろもろの調査結果だ。
最後に本稿の結論をおさらいしておくと、このようになる。
▼本調査の結論
・広島焼きという呼称は広島県民の大多数から違和感
・通常時は「お好み焼き」という呼称を使い、区別するときのみ「広島のお好み焼き」が適切
・「広島風お好み焼き」という呼称も、半数から違和感
・関西発祥のお好み焼きも、通常時は「お好み焼き」、区別するときは「大阪のお好み焼きまたは関西のお好み焼き」
広島県民や大阪府民から不要な反感を買わないためにも、覚えておいて損はない新常識といえる。
アンケート実施方法
▼アンケート方法
・アンケート方法 インターネット上でアンケートを実施
・回答者数 広島生まれ広島育ちの男女55名と、大阪生まれ大阪育ちの男女55名
・調査日 2024年2月7~2月9日
・設問は単一選択式、および記述式
・調査主体 【300人のホンネ】編集部
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