複数人で鍋を囲うと自然発生するのが鍋奉行であるが、どんなに名裁きを見せる鍋奉行にかかっても裁けない問題がある。
それが鍋には、絹ごし豆腐ともめん豆腐のどちらが合うのか?という問題である。
このチョイスをミスってしまっては、火種が家庭問題やら価値観の相違という触れてはいけない問題にまで飛び火してしまうリスクまであるのだ。
しかしながら、絹ごし豆腐にももめん豆腐にもそれぞれによさがあり、どちらかひとつを切り捨てなければならないというのは、それなりに酷な判断となる。
そこで本稿では、鍋料理には一体どっちの豆腐が合うのか?について、全国の300人を対象に調査することにした。
中には意外に思う結果も含まれるかもしれないが、本調査の結論としてはこうである。
▼本調査の結論
・鍋全般ではもめん豆腐派がやや優勢
・もめん豆腐派は「煮崩れ」しにくさを好感
・絹ごし豆腐派は「なめらかな食感」を好感
・豆腐を脇役として起用するならもめん豆腐、主役にしたいなら絹ごし豆腐の使い分け
本稿を読めば、今晩の鍋料理に入れるべき豆腐が明確になることだろう。
それでは早速調査結果を紐解いていくことにしよう。
鍋料理全般だともめん豆腐派がやや優勢
ではまず、鍋料理全般に合う豆腐はどっちなのか?の結果からご覧いただくことにしよう。
結果は僅差ではあるものの、鍋全般ではもめん豆腐がやや優勢となった。
筆者は鍋といえばもめん豆腐というイメージが強かったので、ここまで票が割れたこと自体が意外に映った。
てっきりもめん豆腐派が圧勝して、このアンケートネタ自体がボツになるかと思っていたため、絹ごし豆腐派がかなり健闘したと言ってもいいのかもしれない。
もちろん絹ごし豆腐派からすれば、これは心外な物言いかもしれないが、絹ごし豆腐派の中には「一般的には鍋にはもめん豆腐だと思うが、私は絹ごし豆腐が好き」という声も散見されていた。
そこでいったん鍋料理に使う豆腐の選択だと、やはり万人受けする安全策はもめん豆腐ということにしておきたい。
ただしあえて攻めて絹ごし豆腐という一手もあるということを、ここではまず確認しておこう。
鍋料理に合う豆腐に関する両者の主張
では、次に絹ごし豆腐派ともめん豆腐派の双方の声に耳を傾けてみることにしよう。
実際に声を傾けてみると、双方の言い分とも理解できるものであることがわかる。
もめん豆腐派は「崩れにくさ」を好評
まずはもめん豆腐派の主要な意見をピックアップすると、下記の3点が主だったものになった。
▼もめん豆腐派の主要な意見
1.煮込んでも崩れにくい(67.3%)
2.食べ応えがある(14.6%)
3.味がしみ込みやすい(10.5%)
まずもめん豆腐派の牙城といえる意見が、もめん豆腐の崩れにくさを好評する声である。
実際の回答者の声を紹介すると、次のような声だ。
他の具材が入っている鍋料理ではぶつかって形が崩れてしまうので、全体的にもめん豆腐が良いと思いました。もめん豆腐は形が崩れてしまってもバラバラにならないのがいいと思います。(26歳、女性)
絹ごし豆腐は、箸でとるときに崩れやすいから(49歳、男性)
ほかの具材の下に隠れてしまい、多少荒っぽく扱っても、豆腐としての形状を保ち続けてくれるのがもめん豆腐である。
またわざわざおたまに持ち替えずとも、鍋からお箸で直接ピックできるのはもめん豆腐以外にありえない。
一方で複数人で鍋を囲んでいる場合、ひとりでもガサツな取り方をする者が混じっていると、木っ端みじんに砕けてしまうのが絹ごし豆腐だ。
最悪の場合、楽しいはずの鍋の時間が「もっと豆腐の位置関係を確認してから、おたまを入れなよ!」と、仲間内で不協和が生じる事態にも発展しかねない。
多人数で鍋を囲む場合は、もめん豆腐の屈強さがより頼もしく思えることだろう。
また、もめん豆腐派にはその頑強ぶりゆえに「食べ応え」のよさを挙げる声もあった。
「食べ応えと満腹感が得られるから」(40歳、女性)
「非常に迷いましたが、私の場合、絹ごしは喉越しが良くあっという間に飲み込んでしまうので、大豆の味を噛みしめられる木綿に致しました」(62歳、女性)
特に凍えそうになりながら空腹で帰宅し、体中が温まる鍋で満腹になったとき、生きている幸せをしみじみと実感できる瞬間でもある。
もめん豆腐は、そうした生の実感すら覚えさせてくれる豆腐なのである。
またもめん豆腐は味が染みやすいということも好感されている。
「スープをしっかり吸ってくれて食べごたえがある」(37歳、女性)
「お出汁が染みて翌日もおかずとして崩れず食べられるから」(46歳、女性)
実をいうと、この「味が染み込みやすい」という利点は、絹ごし豆腐派の意見にも聞かれたポイントでもある。
つまりもめん豆腐派にも、絹ごし豆腐派にも「味が染み込みやすい」と考えている人がいるわけだ。
だがもめん豆腐のほうが表面がデコボコしている分、表面積が大きくなりスープが染み込みやすいと考えられる。
絹ごし豆腐派が言っている意味合いは、また少し違う意味合いであると考えられるが、このことについては後述することにしよう。
絹ごし豆腐派は「ツルっとした食感のよさ」を好評
では次に、絹ごし豆腐派の主要な意見を見ていくことにしよう。
絹ごし豆腐派の主要な意見は、下記だ。
▼絹ごし豆腐派の主要な意見
1.ツルっとした食感がいい(63.6%)
2.味が染み込みやすい(9.3%)
3.食べやすい(6.2%)
まずもっとも多かったのが「ツルっとした食感がいい」とする声で、絹ごし豆腐の舌触りやのどごしを好感している意見だ。
「とろっとなめらかな食感が料理になじむ感じがします」(49歳、女性)
「豆腐がとろりと溶ける食感がいいので鍋料理には絹ごしがいいと思います。木綿の歯ごたえはいらない」(45歳、女性)
鍋には肉や魚、人参やエノキなど噛み応えのある食材が多い。
その中で絹ごし豆腐の、口に含むだけでとろけるような食感は、咀嚼のインターバルとしても適しているのかもしれない。
また次に多かった「味が染み込みやすい」だが、もめん豆腐派にも同じ声が聞かれた。
しかし絹ごし豆腐派のそれは、やや異なるものであるようだ。
「絹ごしは煮崩れしても、鍋自体の味をまろやかにしてくれるのも好きなので選びました」(32歳、女性)
つまり煮崩れして細かくなった絹ごし豆腐の粒子で、煮詰まり味が濃くなった鍋全体をやさしく包み込んでしまおうというのである。
これはピリ辛に味付けした鍋で、絹ごし豆腐が辛みのトゲトゲしたところを丸くしてくれるところをイメージすればわかりやすいだろう。
また最後に絹ごし豆腐派の主だった意見として「食べやすさ」を好感するものもあった。
ツルっとした食感とも似ているところはあるが、実際の回答を紹介するとこのような声だ。
「お腹がいっぱいでも口に入りやすく、箸休めにもなるから」(32歳、女性)
「豆腐の主張が強くないほうが合うから」(35歳、女性)
豆腐の味はあっさりしており主張しすぎず、たまったお腹にも入りやすい。
そんな繊細さは絹ごし豆腐以外に考えられない、ということなのだろう。
以上のように、もめん豆腐派と絹ごし豆腐派双方の意見を見てきた。
だが、鍋料理といっても実に多種多様である。
もしかしたら鍋料理ごとに、もめん豆腐派と絹ごし豆腐派の優劣は変化するかもしれない。
そこで次章では、より具体的に鍋料理ごとのもめん豆腐派と絹ごし豆腐派の割合を見ていくことにしよう。
各鍋料理における使用したい豆腐の比較
「鍋料理全般」という主語だと、もめん豆腐派がやや優勢であることは冒頭でもお伝えした。
しかしながら鍋料理ごとにもめん豆腐派と絹ごし豆腐派の割合を調べたところ、やはり「この鍋ではもめん豆腐だけど、この鍋は絹ごし豆腐」という変化が顕著に見られた。
結果をざっくり見ると、鍋に使う豆腐にどういう役割を持たせたいか?で、絹ごし豆腐ともめん豆腐を使いわけるのがよさそうだ。
つまり、こういう使い分けである。
・主役を立たせる名脇役にしたいならもめん豆腐
・豆腐に主役およびメインパートを張らせるなら絹ごし豆腐
この観点に着目しながら、具体的に各鍋料理の割合を見ていくことにしよう。
キムチ鍋は両者ほぼ互角
まずは寒い冬には、週1ペースで食卓に出てきても嬉しいキムチ鍋はどうだろうか?
結果は、絹ごし豆腐派が50.3%、もめん豆腐派が45.3%と若干絹ごし豆腐が上回るものの、ほぼ互角の割合となった。
最近ではスンドゥブチゲという韓国の豆腐料理を提供するお店も多く見られるようになった。
スンドゥブチゲに使われる豆腐は、厳密には絹ごし豆腐ではなく汲み出し豆腐に分類される豆腐だが、食感はかなり絹ごし豆腐に似ている。
そのためか、キムチ鍋では絹ごし豆腐派がもめん豆腐派を少し上回る結果となった。
寄せ鍋はもめん豆腐派がやや優勢
次に鍋料理の定番中の定番といえる寄せ鍋はどうだろうか?
寄せ鍋では絹ごし豆腐派42.3%、もめん豆腐派57.3%と拮抗した結果ではあるが、もめん豆腐派がやや優勢となる結果だった。
鍋料理は全般的にさまざまな具材が入っているものだが、その中でも寄せ鍋こそ「なにを入れても合う鍋」と言えるだろう。
そうしたさまざまな具材が混在している中で、もめん豆腐の煮崩れのしにくさが選好されたように思える。
すき焼きはもめん豆腐派が圧勝
続いて数多くある鍋料理のなかでも、圧倒的「ごちそう」扱いになるすき焼きはどうだろうか?
すき焼きにおいては、もめん豆腐派が圧勝する結果となった。
しかしながら、このもめん豆腐の圧勝には1点注意すべき点がある。
「すき焼きは焼き豆腐がいいです」(33歳女性)
そう、焼き豆腐という選択肢だ。
焼き豆腐というのは、もめん豆腐を水抜きして焼き焦げ目をつけたものなので、もめん豆腐の一種であることに変わりはない。
ただし「すき焼きには焼き豆腐でしょ」という声が散見されたのも事実だ。
確かに水抜きしてある分、煮込んだときに豆腐から水分が出てすき焼きのだしが薄まってしまうことを避けられるので、焼き豆腐にも分がある。
すき焼きの木綿豆腐派の圧勝には、焼き豆腐派も含まれていることに留意いただきたい。
もつ鍋はもめん豆腐派が優勢
筆者の記憶では1990年代に全国的に爆発的なブームが起こり、その後すっかり定番の鍋料理に定着したもつ鍋はどうだろうか?
もつ鍋においては、絹ごし豆腐派が33.7%、もめん豆腐派が56.0%と、もめん豆腐派が優勢となった。
もつ鍋もキムチ豆腐と同様にピリ辛で濃厚なスープが特徴的な鍋であるが、キムチ鍋よりも絹ごし豆腐派が大きく溝を開けられる結果となった。
あくまでもつ鍋の主役はもつとニラで固められているので、豆腐派バイプレイヤー(名脇役)に徹するほうがいいと考える人が多いようだ。
湯豆腐は絹ごし豆腐派が圧勝
ここまでもめん豆腐が優勢になることが多かったが、湯豆腐はどうだろうか?
さすがに湯豆腐だと絹ごし豆腐が71.7%から選好され、圧勝となった。
豆腐が主役になる鍋料理では絹ごし豆腐が選好される、最たるものが湯豆腐だろう。
とはいえ、3割弱の湯豆腐をもめん豆腐で食べる人がいるのは意外な結果だ。
筆者はもめん豆腐の湯豆腐を食したことはないが、少量の豆腐でも強い満腹感が得られそうなので、一度試してみても面白そうだ。
豆乳鍋は絹ごし豆腐派が優勢
最後に、近年になって注目を集めている豆乳鍋はどうだろうか?
結果は、豆乳鍋も絹ごし豆腐が67.0%と明確に優勢となった。
豆乳鍋のレシピもさまざまあるようだが、だしを入れていろんな具材と煮込む点では寄せ鍋に近いとも言える。
だが寄せ鍋ではもめん豆腐が優勢であったのに、豆乳鍋では絹ごしが優勢になるという逆転が見られるのは面白いところだ。
いずれにせよ豆乳のコクと、絹ごし豆腐のまろやかな味が合うと感じる人が多いようだ。
絹ごし豆腐の煮崩れ対策は事前の「水切り」
ここまでさまざまな鍋料理で使う豆腐を見てきた。
全体的にはもめん豆腐が優勢となっているが、キムチ鍋やもつ鍋は確かに絹ごし豆腐のとろりとした食感がハマりそうにも感じられる。
だが絹ごし豆腐の最大の弱点は「煮崩れ」であることは、もめん豆腐派の意見からも明らかだった。
そこで絹ごし豆腐が煮崩れしてしまうことへの対策も、最後に解説しておこう。
結論からいえば、絹ごし豆腐の煮崩れ対策は「水切り」というひと手間をかけるだ。
水切りの一番手っ取り早い方法は、豆腐をキッチンペーパーでやさしくくるみ、電子レンジで3分ほど加熱する。
そうすることで豆腐内の水分がキッチンペーパーにうつり、絹ごし豆腐の硬さがあがり煮崩れしにくくなる。
さらに豆腐内の水分が抜けるので、鍋のだしに入れるとだしを吸って味がよくしみるようになる。
「煮崩れしにくく、味が染み込みやすい」という、もめん豆腐のいいところ取りができるというわけだ。
すでにご存じの方も多いと思うが、絹ごし豆腐派の方は、絹ごし豆腐の弱点をカバーするひと手間をかけることで、より鍋料理の豆腐が楽しめるようになるだろう。
まとめ
以上が、鍋料理に入れるべき豆腐はどちらか?を調査した結果だ。
今回の調査を通して改めて豆腐という存在を考えると、豆腐単体で「豆腐が食べたい!」と思うことはあまりないと思う。
それでいて鍋料理となると、いないと物足りなさを感じる存在であり、時には湯豆腐のような主役も張れる。
どんな役割を任せても期待に応えてくれる万能タイプの食材、それが豆腐であることを再認識させられた。
最後に本調査の結論を、おさらいしておこう。
▼本調査の結論
・鍋全般ではもめん豆腐派がやや優勢
・もめん豆腐派は「煮崩れ」しにくさを好感
・絹ごし豆腐派は「なめらかな食感」を好感
・豆腐を脇役として起用するならもめん豆腐、主役にしたいなら絹ごし豆腐の使い分け
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