アニメやゲームなどの創作物上では当たり前のように存在するが、リアルでは滅多にお目にかかれないもの。
――それが、「僕っ娘」である。
僕っ娘とは、1人称に僕を用いる女性のことを指す。
実を言うと、筆者もこれまでに2人のリアル僕っ娘と遭遇したことがある。
1人はレズビアンバーの店長をやっている女性で、あまりにも僕っ娘が板についていたのでしばらく1人称が僕であることに気づかなかったくらいだった。
もう1人はアニヲタ全開の女子で、ひょんな会話のはずみでかつて僕っ娘であったことを消し去りたい過去として披瀝してくれた。
一体僕っ娘とは、なんなのだろうか?
そこで本稿では、全国の90名の僕っ娘、元僕っ娘の女性にアンケート調査を行い、謎のベールに包まれた僕っ娘の実態について迫ることにした。
本稿の結論は、下記である。
▼本調査の結論
・僕っ娘はリアルにも流動的に存在する
・「僕っ娘=トランスジェンダー」は間違い
・僕っ娘になる理由は多種多様で、痛いとは限らない
・僕っ娘であることに、ためらいも後悔もなし!
数多くはないかもしれないが、僕っ娘はリアルの世界にも確かに存在している。
本稿を最後まで読めば、いざ僕っ娘を目の前にしたときも慌てず、スマートな対応ができるようになるだろう。
では早速詳しく見て行こう。
リアル僕っ娘の生態
それでは手始めに、リアル僕っ娘たちの生態から見ていくことにしよう。
意表を突かれるような結果もあるが、生態は僕っ娘を理解する上で欠かせないものなので、ひと通り目を通していただきたい。
リアル僕っ娘の86.7%は「異性愛者」
まず僕っ娘といえば、その中性的なイメージからか、性的指向がマジョリティ(異性愛者)と異なるのか?という疑問がある。
そこで僕っ娘90名に性的指向を聞いた結果が、下図である。
僕っ娘の86.7%もの大多数が異性愛者、つまり男性を恋愛対象とする女性たちであることがわかった。
確かに僕っ娘の中にはバイセクシャル(12.2%)や同性愛者(1.1%)も存在はするが、この割合は各統計調査が示しているLGBTの割合(おおむね8~10%程度)と、そう大きく変わらない。
つまり僕っ娘だから、性的指向がマジョリティと異なる人が多いということはまったくない。
僕っ娘は一般女性と同じくらいの割合で、男性を恋愛対象としている。
リアル僕っ娘が出現するのは中学生の時期が最多
では続いて、僕っ娘は人生のどのタイミングで発現するものなのか?について見ていくことにしよう。
結論を言えば、リアル僕っ娘が発現しやすいのは11~15歳の「中学生およびその前後」(37.8%)のタイミングであり、10代のときに僕っ娘だった割合は実に55.6%の半数を占めている。
一方で21歳以上になると、僕っ娘の割合は17.8%まで急減する。
つまり多くの僕っ娘たちは学生時代に限定されており、中学か高校を卒業するタイミングあたりで、僕っ娘であることも同時に卒業することがわかる。
多くの僕っ娘たちにとって、リアルで僕っ娘でい続けられるのは学生生活の間だけの刹那的な存在ということなのだろう。
いついかなる時も僕っ娘である人は少数派
僕っ娘の生態の最後に、僕っ娘はいついかなるときも僕っ娘なのか?について聞いてみることにした。
たとえば、親の前や教師の前、バイト先や初めて会う人に対しても、1人称を「僕」で貫いているのかどうかである。
結果として、僕っ娘は相手や状況によって、かなり使い分けられて使用されていることが判明した。
「いついかなるときも僕っ娘で通す」という女性がわずか7.9%に止まったのに対し、「特定の相手や状況のみ僕っ娘になる」という女性が半数もいる。
さらに「プライベートのみ」と「特定の状況のみ」を合わせると、実に8割もの僕っ娘が、僕っ娘であっても問題ない状況を考えたうえで、僕っ娘になっていることがわかる。
つまりあなたの目の前にいる僕っ娘がいるのであれば、少なくともあなたに僕っ娘としての自分を認識してほしいがために、僕っ娘としている可能性が高いのだ。
多くの僕っ娘にとって、まるで手袋を付けたり外したりするかのように、僕っ娘は出たり引っ込んだりするものなのである。
言われてみれば、「そりゃそうだろ」と感じるかもしれない。
だがこれはリアル僕っ娘を理解するうえで重要な手掛かりとなりそうなので、次の章で改めて触れることにする。
ここでは僕っ娘といっても、いついかなるときも僕っ娘ではなく、「隠れ僕っ娘」とでもいうべき存在が数多いることをひとまず押さえておいてほしい。
僕っ娘になった理由はさまざま
ここまでは僕っ娘の生態面を見てきたが、ここからは最大の謎である「なぜ僕っ娘になったのか?」という理由について見ていくことにする。
結論からいえば、僕っ娘になった理由はかなり多様である。
もっとも多かった理由でも3割程度なので、かなり票は割れている。
まずはこちらのグラフをご覧いただきたい。
まず僕っ娘になった理由として、もっとも多かったのは「周囲の影響」(31.1%)だった。
あまりピンとこないかもしれないので、実際の僕っ娘たちの回答を紹介してみる。
「女友達で僕や俺を使っている子がいて、その子に影響されていたのだと思う」(女性。14歳まで僕っ娘)
「僕っ娘が学校のブームだった」(女性。12歳まで僕っ娘)
「男友達が多く、周囲の人たちが『僕』を一人称としていたため、自分も仲間に入りたい気持ちから使っていました」(女性。10歳まで僕っ娘)
総じて「周囲からの影響」には、以下の2つのパターンがある。
1.クラスの女子間で「僕っ娘ブーム」が起こった
2.男友達が多く、周囲に合わせた
回答者の言葉から推測するに、前者の僕っ娘ブームに乗っかったタイプはおおむね女子間でおしゃべりしているときに「僕」と言い合うことでウケる、という受容のされ方であったようだ。
筆者には遠い異国の話のように聞こえてしまうが、僕っ娘ブームが全国の中学・高校でしばしば起こるというのは興味深い現象である。
またこのブームに乗っかったタイプは比較的僕っ娘の中でも、ライト層的な存在と言えるかもしれない。
一方で、日常的に遊ぶ相手が女子よりも男子のほうが多かった女性は、男友達たちへの同質化という目的で、僕っ娘になっていたことがわかる。
少し話は前後するが、これは3番目に多い「女性らしさに違和感」(14.4%)とやや似ているところがあり、回答者の言葉を借りるとこうなる。
「女の子らしいのが恥ずかしく感じて、男の子になりたかったから」(女性。11歳まで僕っ娘)
「お転婆で男の子と間違えられていたことと、男兄妹の中で育ったからです」(女性、12歳まで僕っ娘)
アニメやゲームに出てくる僕っ娘の生い立ちと、比較的近いものを感じないだろうか?
僕っ娘はフィクションの世界でのみ存在するかのように思えてしまうが、実際にはこうした男の子に憧れるリアル僕っ娘たちがキャラクターたちの下敷きになっているのかもしれない。
また微妙な違いとして「1人称で私を使うことへの違和感」(13.3%)もある。
これはどういうことかというと、「男―女」という性別の壁を意識したものではなく、「少女―おとなの女性」の壁を強く意識したものだ。
「それまで使っていた「あたし」が子供っぽく感じるようになり、一方「わたし」は大人すぎる感じがして、友達の使っていた「僕」を使うようになった」(女性、13歳まで僕っ娘)
なんでそこで僕?という疑問は生じるが、記憶をまさぐれば中高生の女子で自分のことを「うち」とか「うちら」と呼ぶ女子はいなかっただろうか?
この「うち」という人称は「あたし(少女)」でもなく「わたし(大人の女性)」でもない私、という表れとも考えられる。
それと同じように、「うち」ではなく「僕」が表出したケースなのかもしれない。
では2番目に多かった「アニメ・ゲームの影響」にはどのような声があったのだろうか?
「アニメが好きで、その中でもボーイッシュで中性的な見た目のキャラが好きだったため、そのキャラクターの一人称を真似していたから」(女性、18歳まで僕っ娘)
「好きだったアニメ(セーラームーン)の女性キャラの一人称が「僕」だったからです。このキャラのコスプレをしていたこともあり、一人称も真似ていました」(女性、14歳まで僕っ娘)
こうしたアニメや漫画、ゲーム、音楽に影響を受けた僕っ娘たちは、「コスプレ的な僕っ娘」と言えるだろう。
これと似てはいるが微妙に異なるのが、「自身へのキャラ付け」のために僕っ娘になった女性たちである。
あくまでコスプレ的な僕っ娘が「なりきり」を志向しているのに対し、自身への「キャラづけのため」(11.1%)に僕っ娘をやっていた女性たちは対外的な志向が見られる。
「一人称を「僕」って言うのがなんとなくカッコイイと思っていたからです」(女性、14歳まで僕っ娘)
「目立つんじゃないかと思った」(女性、14歳まで僕っ娘)
以上まとめると、ひとりの女子が僕っ娘になる理由はかなり多種多様である。
また「痛い」と断じることができない理由も多く、自己顕示欲や承認欲求の強さから僕っ娘になっているのは「キャラ付けのため」(11.1%)くらいと見ることもできる。
「僕っ娘はこういうタイプだ」と決めつけてかかると思わぬ反感を買う可能性が高いので、あまり僕っ娘といっても一義的な存在としてとらえないほうがよさそうだ。
またこのことについては、のちに僕っ娘との付き合い方の章で詳しく触れることにしたい。
僕っ娘であることに大半はためらいも悔いもなし!
次に気になるのは、僕っ娘は「よし、今日から僕っ娘でいこう」と決めた瞬間があるはずだが、すんなり僕っ娘に移行できたのか?という問題だ。
また今回の回答者のほとんどは僕っ娘を卒業している女性たちなので、かつての僕っ娘だった自分は黒歴史のような存在になっているのか?という点もある。
そこでまずは僕っ娘への移行はスムーズだったのか?について見ていくことにしよう。
突如僕っ娘になっても本人は気にならない
まずはそれまでの1人称から「僕」へ変えることにどれくらいの心理的なハードルがあったのかを問うた結果が下図だ。
実に8割以上の僕っ娘が、大きな抵抗を感じることなく僕っ娘にキャラ変したことがわかる。
てっきり「いつ初めて僕っていおう…?この流れでいいのか?いまか?いまじゃないのか?」という葛藤があるのかと思いきや、たいしてないのである。
そもそも僕っ娘は誰かに強いられてなるものというよりかは、自分が望んでなるものなので当然といえば当然かもしれない。
またさらに驚くべきことに、僕っ娘にキャラ変した直後の周囲の反応は、かなり薄いことが判明した。
「まったく反響がなかった」(22.2%)と、「あまり反響はなかった」(41.1%)の合わせて63.3%が、僕っ娘に切り替えた直後もすんなり周囲に馴染んだことがわかる。
これに対して理由はさまざまに考えられそうだが、まず今回の僕っ娘になった理由としてもっとも多かったのが「周囲からの影響」だった。
つまりすでに周りに、ほかの僕っ娘が先行して存在していたことが考えられる。
また僕っ娘になる状況も「プライベート」や「特定の相手や状況」というクローズドな環境であり、「この状況ならいける!」という環境に限定して僕っ娘になっていたことも関係がありそうだ。
いずれにしても、もし僕っ娘になってみたいという女性が本稿を読んでいるのであれば、僕っ娘へのキャラ変はあなたが思っているよりもハードルは高くないようだ。
元僕っ娘の7割は黒歴史視していない
次にかつて僕っ娘だったことへの後悔の念はあるのか?を聞いたみた。
結果は7割の元リアル僕っ娘に、後悔がないことがわかった。
もちろん約3割には僕っ娘だったことへの後悔があり、このような声も聞かれている。
「若いときは「普通の人と違う一人称の特別な自分」だと思い込めるんですけど、歳とってくるとそういううわべだけ取り繕った特別さに価値がないことが分かってきます。とはいえもうクセになってしまっているので中々治らず、常識から外れた変な人として認識され周りにも変な空気をもたらしてしまうので後悔しています」(30歳女性、現役で僕っ娘)
「当時「僕」を使っていた人たちとの思い出話が恥ずかしすぎて、連絡を取ることを控えているから」(女性。14歳まで僕っ娘)
確かに久しぶりに連絡をとりあった相手に「あれ?自分のことわたしって言うんだ?」などと、何年も前のネタをコスられるなんて考えたくもないことだ。
ただし再度強調しておくが7割の僕っ娘には、そうした後悔はない。
冒頭で筆者が実際に目にしたことがある女性も、僕っ娘であったことを後悔していたが、あくまで少数派であったようだ。
僕っ娘だった最終年齢が中学生が最多だったことも関連しており、「こじらせやすい時期に少々こじれていただけ」と受け流す元僕っ娘が多数派ということなのかもしれない。
僕っ娘の「卒業」もソフトランディングに着地できている僕っ娘が多いようだ。
リアル僕っ娘と仲良くなるための付き合い方
さてここまでで、かなりリアル僕っ娘への理解も深まったことと思う。
そこで最後に僕っ娘とはどのように接していけば仲良くなれるのか?について見ていくことにしよう。
というのも、僕っ娘はこれまで見てきたようにローティーンからハイティーンの女子で、他者目線からすれば突然発現する。
もしかしたらあなたの娘がある日唐突に僕っ娘になるかもしれないし、いつも挨拶を交わす近所の子が僕っ娘になる可能性だってある。
そんなとき大人としてのスマートな対応をとるためには、僕っ娘たちとの接し方を知っていなければならない。
本稿で提案する僕っ娘たちと仲良くなる方法は以下の2つだ。
▼僕っ娘と仲良くなる方法
1.ほかの女子とは違うという特別扱いが効くパターン
2.女子ではなく「ひとりの人間」といして扱うことが効くパターン
この2つのパターンを適切に見分けて接することで、あなたは僕っ娘たちを恐れることなく、また僕っ娘もあなたのことを「わかってるヤツ」と認知してくれるだろう。
ではどうやってこの2つのパターンを見分ければよいのか?
そこで僕っ娘たちに「周りの人間にどのように見られたかったのか?」を聞いた結果を見てほしい。
性的指向で「どのように見られたいのか?」をクロス集計すると、ハッキリとした傾向の違いが浮かび上がった。
以下に詳しく見ていくことにしよう。
特別視することで仲良くなれるパターン
まず異性愛を性的指向とする僕っ娘の場合「ちょっと他の女子とは違うんだね」という特別視することが効くようだ。
というのも、上図を見るに異性愛者の僕っ娘の39.7%が見られたいのは「不思議な存在」であるからだ。
実際に回答者の言葉を引くと、このような感じになる。
「個性的なキャラだと思われたい」(女性、14歳まで僕っ娘)
「なんかこの人は他の人とは違う人なんだな、という特別感を持たれたかったです」(女性、13歳まで僕っ娘)
冷静に考えれば、1人称を変えるという他者の目にもわかりやすい「ちょっと違うんです」感を演出しているわけなのだ。
温かい目で見守りつつ「前から思ってたんだけど、もしかしたらキミは普通の子よりも、感性が鋭いのかもしれないね」などと言えば、気に入ってもらえる公算が高い。
なにも難しい話ではなさそうだ。
一方で、「いや…僕っていってるけど、中身普通やん」なんてツッコミは、こうした僕っ娘に言ってはいけないセリフNo.1と言っても過言ではない。
もちろん「なんで僕って言ってるの?ねえ?いつからやってるの?ねえ?」などと、イジリ倒すのも、僕っ娘の世界観が壊れてしまうためご法度である。
性別を超え「ひとりの人間」として見ることがいいパターン
次に同性愛者やバイセクシャルなど、トランスジェンダー的な感覚から僕っ娘をやっている相手には、「女子はこうあるべし」という固定観念を押しつけるのではなく、男でも女でもないひとりの人間として見ることがいいようだ。
バイセクシャルの僕っ娘の63.6%、同性愛者の100.0%が「中性的(無性的)」に見られたいと思っている。
ただし今回の同性愛者の回答者は1名しかいないので、その点はご留意いただきたい。
実際の回答者の言葉を借りると、こうなる。
「女ではなくただの人間、性別を気にしない印象をもたれたい」(28歳女性、現役の僕っ娘)
「自分の性別がニュートラルなところにあり、日によって多少変動していることが通じればいいと思う。女性的な部分も男性的な部分もあるという印象を持たれたい」(27歳女性、現役の僕っ娘)
性別を意識せずにコミュニケーションをとるというのは、感覚的にややとらえにくいところはあるが、変に意識するのもぎこちなくなるので、普通の同性の友人として接していれば大きな問題はないだろう。
まとめ
以上が、僕っ娘の調査レポートだ。
おそらく本稿を読む前といまでは僕っ娘に対するイメージが変わったと思うが、本調査結果をおさらいしておくと、下記になる。
▼本調査の結論
・僕っ娘はリアルにも流動的に存在する
・「僕っ娘=トランスジェンダー」は間違い
・僕っ娘になる理由は多種多様で痛さとは限らない
・僕っ娘であることに、ためらいも後悔もなし!
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