推しのライブやイベントに参加することを「遠征」という。
ただこの遠征は、やったことがある人にしか見えない実態があることをご存じだろうか?
本稿は遠征経験のある男女56人へアンケート調査をすることで、そうした遠征の実態調査を行った結果をレポートする。
結論からいえば、移動を制する者は遠征を制す、だ。
今回の調査の結果、遠征をしたことがない人だけでなく、間違った判断で「遠征=つらい」という印象をもってしまった方にも、よりよい遠征をするためのヒントが詰まっているので、ぜひ最後までご覧いただきたい。
遠征とは?
まず本稿でいう「遠征」とは、推しのライブやイベントに参加するため、長距離の移動をすることを指す。
どれくらいの移動をすれば「長距離」になるのか?という問題はあるが、おおむね自身が住んでいる県外に出て、宿泊してもおかしくない距離を移動すれば、遠征と呼んで差し支えないだろう。
また遠征は、推しに対する信仰心が深まった結果「とってしまう」行動である。
そのため極めて自発的なようでいて、本人は「これは絶対行かんとあかんやつ…」という強い使命感に駆られているが、あとあと冷静に振り返れば気のせいである。
また遠征には推しのライブやイベントという非日常感に、「よく知らない土地」というさらなる非日常感が乗っかることになる。
なにより遠征による長距離移動→ライブやイベントへの参加、という流れは、体力的に過酷なものになりがちで、強い非日常感もあいまって、すべての旅程をこなし帰路につく頃には宗教的法悦に似た感覚を覚えることもしばしばだ。
さてそんなライブやイベントへの遠征だが、みんなどのようにこなしているのか実態を見ていくことにしょう。
遠征のための平均予算は「65,411円」
最初に遠征に対する「お金事情」から見ていくことにする。
遠征の際に、どのくらいのお金を持っていくか?という平均予算を問うた結果が下図だ。
遠征のための平均予算は「65,411円」だったが、もっとも多かった予算帯は「2~4万円未満」の32.1%だった。
また「6万円未満」で大きく見ると75.0%の人が当てはまり、おおむね遠征費用の相場はこの6万円が一つのボーダーとなることがわかる。
一方で、16.1%とやや少数ではあるが10万円以上の予算を割いている回答者もいる。
なお回答者の中で最高額の予算を回答したのはX JAPAN推しの女性で、なんと100万円である。
「X JAPAN貯金をしてるので、遠征では節約をしません」(45歳女性)
2023年5月時点で、X JAPANはまだ活動再開と言い切れる状態ではないが、その分推しのためにいくら貯金をため込んでいるのか、気になるところである。
またこの女性が突出しているため全体の平均額をあげている側面もあるので、この女性を除外したときの全体平均予算額は「48,418円」である。
回答母数が少なく、このひとりの女性で遠征費用の予算平均が跳ね上がってしまった可能性があるので、ご留意いただきたい。
平均予算が高いのは「同人イベント」と「男性アイドルのライブ」
ちなみに参加するイベントやライブによって、平均予算の違いがあるのかを見てみたところ、差異が見られた。
その結果が下図だ。
もっとも平均予算が高かったのは、「同人イベント」で55,000円の予算となった。
同人イベントというのは、コミケなど同人即売会の名の通り、同人グッズ購入をメインにしたイベントなので、予算が高くなるのは自然な結果だ。
また次いで多かったのが「男性アイドルのライブ」であり、平均予算は54,063円となった。
つまり支持層の多くは女性だと思われるが、一方で男性が支持層の「女性アイドルのライブ」の平均予算は43,071円に止まった。
推しのアイドル熱の高さでは、男性よりも女性のほうが高いことがうかがえる。
一方で、もっとも低い平均予算だったのは「スポーツイベント」で、これは推しの野球チームやサッカーチームなどの観戦イベントのことを指す。
平均予算は40,000円と、今回の調査ではもっとも低い水準となった。
遠征費でもっとも出費がかさむのはダントツで「交通費」
このようにおおむね5万円前後とそこそこの出費になる遠征だが、その費用の内訳はどうなっているのだろうか?
そこで予算配分としてもっとも出費がかさむものを聞いた結果が下図だ。
圧倒的に多かったのが「交通費」に対する支出で、実に7割程度の回答者が出費がかさむものとして挙げている。
また意外にも少ないのが「グッズ購入費」でわずか8.9%にとどまり、推しや運営の応援のためにグッズを購入してお金を落とす人は少なくないと思うが、実際はそうした金額よりも交通費のほうにお金が回っている実態があるようだ。
仮にモデルケースとして遠征費用50,000円の内訳を試算してみると、このような配分になるのではないだろうか?
・交通費 30,000円(40%)
・チケット代 10,000円(20%)
・宿泊費 7,000円 (14%)
・食費、雑費 2,000円 (4%)
・グッズ購入費 1,000円 (2%)
かなりカツカツの内訳になってしまったが、せっかくの遠征地で観光やグルメも楽しみたいとなると、とてもではないが50,000円の予算では足りないことがわかる。
しかしながら遠征費用の4割も占める「交通費」は遠征の推しに会いたいという本来の目的から考えると、頭の痛い出費にどうしてもなってしまう。
そこでこの交通費に関してもう少し深掘りしてみることにした。
遠征の移動手段は新幹線が最多
遠征を考える人にとって、できる限り抑えたい交通費だが、実際どのような移動手段を使って遠征をおこなっているのか問うた結果が下図だ。
もっとも多かったのは、「新幹線」による移動で32.1%となり、次いで「飛行機」が28.6%となった。
あとの章でも詳しく触れるが、実をいうと新幹線というのは値引き幅がほとんどないという大きなデメリットがある。
もちろん新幹線は速いうえに空港とは違い都市部のど真ん中にアクセルできるという移動手段としてはかなり優れた手段だ。
だが新幹線の値引き幅を見てみると、
▼新幹線運賃の割引率比較(新大阪~東京間)
通常料金 | 14,720円 | 0% |
EX早特ワイド21 | 12,370円 | -15.9% |
株主優待券 | 11,770円 | -20.0%株主優待券を2枚利用時 |
回数券 | 2022年に廃止 | ― |
往復割引 | 走行距離が601kmを超える場合のみ適用 | 10.0% |
こう見ると株主優待券を使えばよさそうなものだが、実際にはそうはいかない。
まず株主優待券を入手するためにJR各社の株主になろうとすると、100万円以上の有価証券を購入する必要となる。
そのため現実的には金券ショップなどで売っている株主優待券を1,000円前後で購入することになるが、その購入金額を加味すると、割引率はほとんどなくなってしまう。
一方で、現実的なのは「EX早特ワイド」という21日前までに購入すれば受けられる割引制度を利用することだ。
だが、それでも割引率は16%となり、実質1,000円ちょいの金額しか浮かない。
このように新幹線での移動はめちゃくちゃ便利ではあるが、遠征費用を下げるという点ではかなり不向きであることがおわかりいただけるだろう。
では遠征費を下げることに私たちは無力なのかというと、そんなことはない。
次章では、推しのライブやイベントへの遠征費用を抑えるためのコツをご紹介していく。
遠征費用を抑えるためのコツは飛行機と日帰り
遠征費用を抑えるためにまず注目すべきところは、やはり遠征費用の内訳の中でも割合が高い「交通費」にメス入れしていくしかない。
そこでまずは移動手段の再検討から行うことにしよう。
飛行機利用をまず考えてみる
新幹線の値引き幅の低さは先ほど触れたが、これが飛行機になると値引き幅はかなり大きくなる。
「飛行機は高い」というイメージがあると意外に思うかもしれないが、飛行機は割引制度をうまく活用すれば、かなりの割引が受けられる。
▼伊丹~羽田空港の飛行機の費用
通常運賃 | 27,710円 | ― |
セイバー(前日) | 15,010円 | 45.8% |
スペシャルセイバー(28日前) | 11,820円 | 57.3%OFF |
LCC(関空-成田) | ¥9,390 | 58.6%OFF |
LCC早割 | 3,290円 | 88.2%OFF |
タイムセール | 6,600円 | 76.1%OFF |
まずタイムセールは、JALが年に何回か実施される特大セールで、実に76.1%もの割引率になる。
新幹線の運賃の半分以下だ。
ただこのタイムセールの時期と行きたいライブの時期が重なるかは運次第となってしまうので、現実的には搭乗日の28日前より予約することで得られる「スペシャルセーバー」が利用しやすい割引制度だろう。
新幹線で行くよりも、往復すれば7~8,000円程度は浮くことになる。
また利用する空港を「関空―成田」のようにLCC(格安航空会社)が就航している航路に変えても、同じくらいの割引が受けられる。
上表は当日券の価格だが、LCCも1か月前などの速い段階で予約をいれておけば、大きな割引が受けられ、88.2%もの割引幅になる。
東京~大阪間を往復しても1万円以内で収まってしまうという驚異の価格だ。
これなら夜行バスと大きく変わらない運賃になる。
だが基本眠れない夜行バスを使って、万全とはほど遠い体調でライブに参加することを考えれば、わずか1時間ちょっとのフライトで行ける飛行機に軍配が上がるだろう。
予算5万円でも、交通費が圧迫することなく、遠征先でグルメやグッズ購入に回せる潤沢な資金を得られることになる。
このように移動手段を新幹線から飛行機に見直すことで、交通費を大きく削ることができる。
日帰りを考える
交通費の次に削れる費用となると、「宿泊費」である。
ビジネスホテルなら素泊まりでも7,000円程度は発生してしまうので、日帰りできるならライブを見終わったあとに日帰りしてしまったほうがいい。
実際に遠征経験者の回答をみると、3割程度は日帰りの弾丸遠征をしていることがわかる。
もちろんビジネスホテルには泊まらず、ネカフェやカプセルホテルのような簡易的な宿泊施設に泊まる手もある。
だが1泊するとなると、今度は金銭面もあるがスケジュール調整の難しさも出てきてしまう。
その点日帰りなら、週末の土曜日に遠征し、日曜日はゆっくり休むということができる。
ただし、先ほど飛行機利用を推奨したが、飛行機利用の注意点は下記の3つだ。
・ライブ会場から退場が順番制だとすぐに会場から出られない
・空港からライブ会場への移動時間が1時間程度かかる
・飛行機のチェックイン時間は30分前
おおむねどの空港でも最終便は21時台である。
つまり15時開場の16時スタートのライブであれば、飛行機で日帰りできるのだ。
ライブ開始時間 | ライブ終了時間 |
---|---|
15時開場、16時スタート | 18~19時 |
17時開場、18時スタート | 20~21時 |
もちろん朝一のフライトで遠征先に飛び、ランチグルメと観光を楽しんで、ライブを観て、帰るという弾丸スケジュールも組める。
この「飛行機&日帰り」という組み合わせは、遠征費用を2万円ほどカットすることができるだろう。
もちろん浮いた遠征費で、推しのライブにもう1度行く、なんていう夢のような選択肢も浮上するかもしれない。
遠征は単独でいく人が過半数
さてここまでは、遠征のお金事情についてみてきた。
ここからはそれ以外の遠征の実態について軽く見ていくことにしよう。
まず推しのライブやイベントの遠征には何人で行くか?という問題があるが、大半は単独行動をしていることがわかる。
身の回りに同じ推しを見つけるということですら簡単なことではないが、さらに遠征ともなるとタイミングや熱量まで一致しなければならない。
遠征は基本的には単独行動で行うものと考えてよさそうだ。
ただ遠征を重ねていると、遠征先で仲間ができるというケースも少なくないようだ。
「共通のファンの人と繋がれて色々な場所で仲間が増える」(35歳女性)
また単独行動には単独行動のよさがあり、全旅程を自分のやりたいことで埋め尽くすことができるというメリットもある。
もちろん見知らぬ土地にひとりで行くことは多少の勇気がいることではあるが、それもまた遠征のよさと考える人が多いようだ。
遠征のメリット・デメリット
最後に推しのライブやイベントに遠征することのメリット・デメリットをザっと洗っておくことにしょう。
遠征のメリット
「大好きな推しに会えることが一番幸せを感じます」(32歳女性)
なんといっても遠征でもっとも聞かれたメリットは、推しに会えるということに尽きる。
いつもの会場ではなく、別の場所になるとMC(曲間のトーク)が変わったり、会場の広さが変わって推しとの距離が縮まったりするなど、その土地でしか味わえないものがあるようだ。
「その土地でのグルメ、観光ができる。あと、ライブがとにかく楽しい」(25歳男性)
また次に多かったのが、ライブだけでなく観光も楽しめるという一石二鳥のうまみを挙げる声だ。
日帰りとなると観光は限られた範囲でしかできないかもしれないが、朝一で移動すればそれでもご当地グルメや会場近くの有名スポットを2~3か所回ることはできる。
遠征とは、「非日常(推しのライブ)×非日常(知らない土地)」という、非日常の掛け算である。
記憶にいつまでも色濃く残り続ける経験なら、遠征に勝る行為はないだろう。
遠征のデメリット
「お金が飛んでいく」(29歳男性)
遠征のデメリットとしてもっとも多かったのが、やはりお金である。
いくら交通費を抑え、宿泊費を切り詰めたとしても、それでも総額が3万円程度の出費になってしまうことには変わらない。
遠征にはのめり込むような魅力があるのは確かだが、自分の財布事情を考えながら、無理のない付き合いをする必要がある。
「移動時間が長く疲れること」(20歳男性)
飛行機であれば国内ならどこでも片道1時間ちょっとのフライトで済むが、それ以外の交通手段だとどうしても無視できないレベルの「移動疲れ」が出てきてしまう。
長距離バスに乗っての8時間、新幹線に乗って3時間移動するとなると、往復で考えたときに一日の大部分が移動で埋め尽くされてしまう。
もちろん移動中に体を休めたり、読書をしたり、旅先での予定を組むなど、移動中のすべてが時間の無駄というわけでもないが、大半は「窓からボーっと景色を眺めているだけ」の有意義とは言い難い時間である。
遠征のお金も時間も体力も、移動がその大半を持って行ってしまう。
交通手段の選択は遠征の体験を大きく左右する選択になるので、しっかり比較検討することを再度強調しておきたい。
まとめ
以上、推しのライブやイベントへの遠征に関する実態を見てきた。
遠征してしまうほど夢中になれる推しが、人生において何人見つけられるか?を考えると、遠征できるほど夢中になれるものがある人は幸福だと言ってもいいかもしれない。
ただし、遠征には「移動」という金銭的にも時間的にも負担となるハードルもある。
移動を制する者は遠征を制す、と言ってもいい状況が今回の調査で確認できたのではないだろうか。
この移動の充実度をいかに引き上げるかで、遠征全体の体験の良し悪しが左右されるといっても過言ではないので、ぜひ遠征の際にはいま想定している移動手段がベストな選択なのか、一考していただきたい。
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