あなたはいま、いつものプレイリストも飽きてきたので仕事中のBGMとしてよりよい音楽選びのヒントを求めているのではないだろうか?
音楽が仕事に与えてくれるポジティブな影響は、多くの人がなんとなく体感していることだ。
だが仕事中の音楽選びの深い沼に落ち込んで、小1時間もBGM探しをする羽目になってしまっては生産性向上どころの話でない。
そこで本稿では、気の重いタスクに立ち向かう勇気をくれ、時が経つのを忘れるほど仕事に没頭できるBGMを探るため、300人を対象にアンケート調査を行った。
結論から言えば、本調査であきらかになった仕事中の生産性をあげる音楽選びのポイントはこうだ。
▼生産性のための音楽選びのポイント
1.ボーカル(特に日本語歌詞)がない
2.楽器編成が少ない
ただし仕事中の音楽視聴は厚みがある話であり、このポイントだけでは語りつくせない部分が多い。
以下、じっくり見ていくことにしよう。
みんなが仕事中に聴いている音楽(BGM)ジャンルランキング
まずはみんなが仕事中に聴いている音楽ジャンルについて、多いもの順にランキング形式で見ていくことにしよう。
▼仕事中に聴いている音楽ランキング
ランキングの顔ぶれを見て「わかる、わかる」とニヤリとした方も多いのでは?
全体的に回答はバラけたが、「好きなアーティスト」(17.3%)が最多となったのはなにも驚くべきことではない。
音楽が聴きたいと思った時、真っ先に手が伸びるプレイリストであるからだ。
それよりもここで注目したいのは、好きなアーティストの楽曲以外で、仕事中にどんな音楽を聴いているのか?である。
そこで2位以下を見ると、「クラシック」(9.3%)、「環境音」(9.0%)、「JAZZ・ボサノヴァ」(8.3%)、「ピアノ(独奏)」(7.3%)、「作業用BGM」(7.3%)と続いた。
ちなみに「環境音(特に雷雨)」推しの筆者としては、どうせ少数派だろうと思っていた環境音の意外な人気ぶりにニヤニヤが止まらない。
ではこうした上位陣を推す声を、それぞれ見ていくことにしよう。
「クラシック」を推す声
「クラシック音楽で、古典派の室内楽、交響曲、などから自分好みに編集したプレイリストがあります」(38歳女性)
「最近はチャイコフスキーの交響曲第4番、ブルックナーの交響曲第2番/7番、サン・サーンスの交響曲第3番がお気に入りです」(36歳男性)
「環境音」を推す声
「アイデアを出す時などは、熱帯雨林の鳥の声。インコやオウムが鳴いているものは一番気分がノリます」(57歳女性)
「動画サイトにある虫の音や雨音。滝の音、海の音。できれば、自然の中でリアル録音されているもの。」(48歳女性)
「JAZZ・ボサノヴァ」を推す声
「ジャズをよく掛けます。ビル・エバンス、チック・コリア、キース・ジャレット等のピアノが多いです」(51歳男性)
「アイデアを出したいときはJAZZなどのカフェミュージック」(46歳女性)
「ピアノ(独奏)」を推す声
「ピアノ系のクラシック音楽で抑揚の抑え目な曲」(41歳女性)
「エリック・サティのピアノ作品」(53歳男性)
「作業用BGM」を推す声
「YouTubeにあるソルフェジオ周波数の入った音楽。きれいなメロディーの曲も多く、空間が浄化された感じがして、仕事に集中しやすいです」(51歳女性)
「YouTubeにあるゾーンに入る音楽」(39歳男性)
どの音楽ジャンルを推す声においても、それぞれにこだわりが見られる。
一方で共通する点もあり、これらの音楽ジャンルはおおむねボーカルが入っていない「インストゥルメンタル」ということだ。
実際に回答を細かく見ていくとボーカルが入った曲は仕事中や作業中にかける音楽として不向きとする声が多数あり、回答者の中には「洋楽のポップスは歌詞の意味がわからないから集中できるが、歌詞が頭に入ってくる邦楽はダメ」という声もあった。
仕事効率が上がる音楽は「ピアノ(独奏)」が最強
次に、仕事中にかける音楽に期待するものといえば、仕事効率や生産性を格段にアップさせてくれる音楽ではないだろうか?
そこであくまで回答者の体感ベースではあるが、仕事効率や生産性が上がる音楽ジャンルを見てみることにしよう。
仕事の生産性が「かなり上がる」、「やや上がる」と評価した回答者の合計値に着目してみると、「ピアノ(独奏)」が95.5%の最多となり、もっとも生産性の向上を実感できる音楽ジャンルとなった。
続いて「環境音」(92.6%)、「作業用BGM」(90.9%)が続く結果となったが、これらには明確に共通する傾向が見られる。
つまりボーカルだけでなく、楽器編成がミニマムの音楽ジャンルという共通点である。
実際に同じインストゥルメンタルでありながら、オーケストラ編成の「クラシック」(78.6%)や、リズム隊(ドラム・ベース)や金管楽器なども編成に入る「JAZZ・ボサノヴァ」(76.0%)の生産性評価が低めになったのは、楽器編成の豊かさのためと考えることができる。
また、現在の人気ポピュラーソングの状況からボーカル入りの曲が多いと思われる「好きなアーティスト」(86.5%)、「ロック・ハードロック」(78.9%)も上位陣と比較するとやや抑えられた結果だ。
仕事中のBGMの王道である「ラジオ・雑談放送」(72.2%)にいたっては言葉を追ってしまうためか、生産性UPの実感率はこれらの中でもっとも低い値となった。
体感的にもボーカル曲が思考の邪魔をするというのは納得できることだが、学術的な裏付けもある。
これらをまとめると、生産性に寄与する音楽(BGM)選びはこれらの基準で選ぶことがよさそうだ。
▼生産性のための音楽選びのポイント
1.ボーカル(特に日本語歌詞)がない
2.楽器編成が少ない
「ピアノ(独奏)」はこの二つの点をよりとく満たしているのか、仕事の生産性をあがるうえで最強の音楽ジャンルという結果だった。
仕事中に音楽をかけたい理由は「チル派」と「アゲたい派」に二分
ところでそもそもの話になるが、なぜ我々は仕事中に音楽をかけたいと思うのだろうか?
各自パッと思いつく理由があると思うが、改めて調べてみると意外にも理由は多様にある。
終わりの見えないタスクや納期間近のタスクに直面したときの「気分転換・リラックス」(32.7%)を筆頭に、気が重いタスクに立ちむかうときに「集中するため」(22.0%)、やる気が起きないときの「モチベーションをあげる」(21.0%)など、さまざまな理由が挙げられた。
9.0%と少数派ではあるが「まわりの騒音遮断」という、サウンドマスキング効果を狙ってBGMを利用している回答者がいるのも面白い。
ただ大きく見ると、これらの理由は「チル派」と気分を「アゲたい派」に二分できそうだ。
つまり上図の理由を分類すると、こうなる。
チル派 | アゲたい派 |
---|---|
気分転換・リラックス 集中する 無音がつらい まわりの騒音を遮断 | モチベーションをあげる 眠気対策 |
これを見ると、音楽で「仕事の生産性を上げる」という効果を得るためには、ふたつのアプローチがあることがわかる。
つまり、この2つだ。
・「ストレスを軽減」(チル派))しながら、集中状態を継続する
・やる気が出ず仕事モードに入れないときに、スイッチを入れる(アゲたい派)
音楽を聴いて、気分が落ち着いたり気分がアガったりするのが面白いところだが、自身が仕事中に置かれている状況によって、「チル派/アゲたい派」のどちらを選択すべきかのヒントをくれそうだ。
そこでどういう音楽ジャンルがチル派・アゲたい派にそれぞれ支持されているのか?をざっくり見ておこう。
かなり細かいデータになってしまったが、自身が「チルしたいのか/アゲたいのか」によって選曲するときの感覚に近いものになっているのではないだろうか?
つまりここで重要なのは、仕事中のBGMにする音楽のジャンルは、その状況によって使い分けるべきということだ。
具体的に言うと、仕事に疲れが出てきたときや、没頭したいときにはチル派の音楽を、就業前ややる気のスイッチが行方不明になってしまったときはアゲたい派の音楽、という使い分けである。
逆にあくまで感覚的な話だが、仕事に没頭したいときにアゲアゲの激しい曲を聴いたり、眠気と戦っているときにチルい音楽を聴いたりすると、生産性はむしろ落ちると思われる。
「仕事ストレスを緩和したいとき」と「やる気スイッチを入れたいとき」の使い分けで、仕事中の音楽はより生産性の向上に寄与してくれるようになりそうだ。
音楽で得たい効果によって音量も変わる
音楽から得たい効果とジャンルの関連性を見てきたが、もう少しこの音楽から得られる効果について深掘りしようと思う。
というのも、我々の仕事の生産性を上げたり下げたりするのは、音楽のジャンルだけではないからだ。
ここではまずそうした生産性の改善に関係すると思われる、「音量」について見てみよう。
再生音量は、音楽を聴くことで得たい効果によってきれいにわかれる結果となった。
まず「気分転換・リラックス」などチル目的で音楽を再生する音量は、「かなり小さめ」(73.3%)と圧倒的多数となった。
一方で「モチベーションをあげる」ために音楽を再生音量は、普段の音楽視聴と同じ音量である「ふつう」(31.0%)、「やや大きめ」(25.0%)のあわせて51.0%が過半数となった。
つまりチルしたいときの音量は「かなり小さめ」で、アゲたいときは「ふつう」以上の音量となる。
また意外にも「集中するため」の再生音量は「ふつう」(32.8%)、「やや大きめ」(31.3%)とあわせて64.1%と過半数となった。
仕事に集中したいなら音楽の音量を下げそうなものだが、先ほどの音楽ジャンルとあわせてみると、集中したいときに再生される音楽はクラシック、サントラ・ゲーム音楽、ラジオ・雑談放送が多かった。
人によって効果がわかれそうなので、これらのジャンルをやや大きめの音量で再生して集中力が増すか自身で実験してみるのがよさそうだ。
音楽から得たい効果で再生環境が変わる
では、仕事の生産性に関わる「音量」の次に、「再生環境」はどうか?
ここでいう再生環境は、大きくわけると「スピーカーなのか(赤系)?イヤホン・ヘッドホンなのか?(青系)」のふたつにわけることにした。
結果は下図である。
まず仕事中の音楽を再生する機器として、「スピーカー派」はどのような効果を期待しているのかを見てみよう。
結果は、スピーカー派が求めるものは「モチベーションをあげる」と「気分転換・リラックス」が主だった効果となった。
面白いのは、BGMに「気分転換・リラックス」を求める層は再生環境にもこだわりがあるらしく、汎用スピーカーではなく質のいい音楽スピーカーを使用している割合が高い。
一方で、イヤホン・ヘッドホン派が求めるものは「集中するため」がもっとも高かった。
仕事への没頭状態を作り出したいときは、イヤホン・ヘッドホンなど音楽への没入感が増す再生環境を選択するのがよさそうだ。
仕事中に音楽を再生することの是非
これまで見てきたように仕事中に音楽を再生することは、チル効果とアガる効果のふたつを得られることができ、その結果仕事の生産性が向上すると考えられる。
実際にBGMによる生産性向上については、数々の学術的な研究がなされており、その有効性が確認されている。
しかしながら、職場ルールで就業中の音楽再生が禁止されていたり、「仕事中にイヤホンをつけているなどけしからん」という価値観をもった上司が存在するのもまた事実である。
もちろん職種によっては音楽がマイナス効果を生む業種もあるし、BGMは生産性向上にとって万能である、などというつもりもない。
しかし「音楽=娯楽=勤務中に不謹慎」という尺度だけで否定してしまうのは、あまり賢い選択とも思えない。
そこで最後に2022年現在、日本の働くさまざまな業種の人たちは仕事中の音楽をどのように考えているのか?を確認しておくことにしよう。
「BGMはあってほしい」が約8割
78.3%と圧倒的多数になったが「なくても仕事に支障はないが、BGMはあってほしい」の回答者だった。
「BGMがないと支障が出る」というBGMヘッズな7.7%もあわせると、BGM肯定派は実に86.0%にも昇る。
24時間オンラインに接続され音楽が聴ける現代の日本において、仕事中の音楽視聴はもはやスタンダードと言える結果かもしれない。 少なくともそう望んでいる人々がこれだけの割合いる。
特に「単純作業・事務作業」時に音楽が求められる
最後に「仕事」といってもさまざまな業務がある。
そこでどんな業務に取り掛かっているときに、BGMがほしくなるかを聞いた。
結果は下図だ。
データ処理などの「単純集計・事務作業」がもっとも多く43.3%、次いで提案書などの「文書・資料作成」が21.3%となった。
面白いのが、全体を俯瞰するとあまり頭を使わない業務もある一方で、「企画・アイデア出し」や「細かい複雑な処理」など頭を酷使するような業務でもBGMを求める人がいる。
人によってわかれそうなところではあるが、自分はどういう業務においてBGMがあると生産性があがるのか?を改めて実験してみるのも面白そうだ。
例えば回答者の例を見ると、一見意外に思える「接客・顧客とのコミュニケーション中」(3.7%)というシーンであっても、「顧客との無言の気まずい時間が恐いが、BGMがあることで空白を埋めてくれるような気がして、会話がぎこちなくなるのを避けられる」という効用もある。
意外な発見があるかもしれない。
まとめ
これまで見てきたように、仕事中の音楽視聴には大きくわけて、
・ストレスの軽減
・やる気を引き出す
という目的があることがわかった。
また仕事の生産性をあげる音楽選びでは、下記の基準でBGM選びを行うのがよさそうだ。
▼生産性のための音楽選びのポイント
1.ボーカル(特に日本語歌詞)がない
2.楽器編成が少ない
その結果、本調査では「ピアノ(独奏)」が生産性をあげるもっとも効果的なBGMという結果になった。
ぜひ仕事中の音楽選びの参考にしてもらいたい。
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