ここ2年封印されていた夏の甲子園でのブラスバンド応援だが、2022年はブラスバンドが夏の高校野球にも帰ってくる。
異論はあるかもしれないが、筆者は高校野球においてブラスバンド応援はなくてはならないものだと考える。
高校野球の地方大会でブラスバンドやチアが駆けつけているチームと、ブラスバンドがこなかったチームの試合を何度も目にしてきた。
はた目から見ていても、ブラスバンドがこなかったチームにかかる圧だったり、アウェイ感は尋常ではない。
逆に言えばブラスバンドがいてくれるだけで、一気にホーム感を醸成でき、打線に勢いと華やかな彩りを添えてくれるのだ。
そこで本稿では、そんな高校野球のブラスバンドについて、元ブラスバンド部員がおすすめする胸アツ応援曲から、ブラスバンドのウラ事情まで、とことん調査することにした。
結論からいえば、高校野球にブラスバンドは欠かせないものだが、ブラスバンドが駆けつけてくれるのは決して当たり前のことではない。
本調査結果を見れば、高校野球の試合応援に来てくれているブラスバンドへの見方が一変するはずだ。
元ブラスバンド68名が選ぶ高校野球胸アツ応援曲ランキング
まずは高校野球の試合応援を行った元ブラスバンドメンバー68名が選ぶ、胸アツの応援曲をランキング形式で見ていくことにしよう。
全体として票はかなりバラけたが、その中でも特に票が集中したものをピックアップした。
1位 | アフリカンシンフォニー | 9票 |
2位 | 狙いうち | 8票 |
3位 | 必殺仕事人のテーマ | 5票 |
同率4位 | コンバットマーチ | 4票 |
同率4位 | タッチの主題歌 | 4票 |
同率4位 | 宇宙戦艦ヤマト | 4票 |
高校野球ファンならいずれも名前を見ただけでメロディが脳内再生される人気応援曲だが、なぜ元ブラスバンド部員たちはこれらの曲を推したのか、それぞれ詳しく見ていくことにする。
【1位】アフリカンシンフォニー(9票)
このメロディを聴くと「今年も夏が来たなぁ」と感じる方も多いのではないだろうか。
真剣勝負の緊張感と、相手チームを圧倒するような重厚さがピッタリ雰囲気にあっている名曲だ。
そんな「アフリカンシンフォニー」が最多得票を獲得した。
【2位】狙いうち/山本リンダ(8票)
多くの高校で「チャンステーマ」として使われているのが、この応援曲だ。
この曲がバックに流れている中で、甲子園の名場面が生まれることも少なくない。
第2位は山本リンダの「狙いうち」だった。
ちなみに山本リンダの曲では「どうにも止まらない」の名を挙げる回答者もいた。
【3位】必殺仕事人のテーマ(5票)
トランペットを担当した、元ブラスバンド部員から圧倒的に支持を集めたのがこの曲。
ここ一番のところで代打が起用されたときに「必殺仕事人」のこの曲がかかるのも、場況とマッチしていて心憎い演出だ。
第3位は「必殺仕事人のテーマ」だった。
【同率4位】コンバットマーチ(4票)
両者一歩も譲らず緊迫した試合展開が続いているときに、流れを一気に引き寄せてしまうような威力をもっているのがこの曲。
もともとは早稲田大学野球部のオリジナル応援曲だったが、現在は数多くのブラスバンドで起用されている。
そんなコンバットマーチが同率4位だった。
【同率4位】タッチ(4票)
レジェンド級高校野球アニメ「タッチ」の主題歌も同率4位にランクインした。
今回の調査では、普段クラシックしか練習しない吹奏楽部だが、試合応援になるとポピュラー音楽を奏でることの新鮮さを挙げる声も見られた。
まさにその代表的な1曲と言えるだろう。
【同率4位】宇宙戦艦ヤマト(4票)
それぞれの楽器に見せ場があるので、満場一致で応援曲が決まった。(30歳女性。アルトサックス)
こちらもレジェンド級SFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌が同率4位にランクインした。
演奏していて気持ちがいいという声も多数挙がっていたが、聞いているほうも「かっ飛ばすんだ、あのイスカンダルまで…!!」と気持ちが入ってしまう一曲だ。
それ以外の応援曲
以上のように、4位までの応援曲を見てきたが、票が入った応援曲をすべて掲載しておく。
どの曲も高校野球の試合では聞いたことがある曲ばかりで、気になったものがあったらぜひYouTubeなどで検索してみてほしい。
▼その他の票が入った曲一覧
エル・クンバンチェロ、サウスポー、ルパン三世のテーマ、さくらんぼ、残酷な天使のテーゼ、UFO、イノキボンバイエ、スパークリングマーチ、タイガーラグ、たからじま、チャンス紅陵、どか~ん、プリティフライ、マーチベストフレンド、マイレボリューション、ロッテのチャンステーマ、夏祭り、どうにもとまらない、西部警察のテーマ、大草原の歌、鉄腕アトム、東京音頭、闘牛士のマンボ
というわけで、次章はあまり語られることのないブラスバンド(吹奏楽部)のウラ事情にフォーカスすることにしたい。
高校野球のブラスバンド応援のウラ側はかなり過酷
筆者も含め、高校野球ファンの目線からすると「最後の夏の試合なんだから、応援にブラスバンドとチアが駆けつけてくれるのは当然だろう」と考えてしまう。
だがそれはあくまで野球部中心の見方でしかない。
今回の調査によりその実情を聞いてみると、ブラスバンド応援のウラ側はかなり過酷なものであることがわかった。
この章では、そんなブラスバンドの過酷なウラ事情を見ていくことにする。
試合応援は「暑さ」地獄との闘い
まずは暑さである。
試合応援のつらかったことを聞いたアンケートではほぼ8割の回答者が「炎天下での長時間の演奏」を挙げた。
これには2つ理由がある。
まずひとつ目は、シンプルに「熱中症との闘い」。
高校野球の試合はコールド試合でもない限り、3時間ほど続く。
普段屋内で練習しているので暑さ慣れしていないブラスバンドメンバーにとって、炎天下に3時間座っているだけでも大変な思いをするだろう。
そこに輪をかけて、コンクールであっても15分程度しか演奏しないところを、試合時間の半分は立って演奏し続けるのである。
実際に熱中症や貧血になって倒れてしまった回答者も数人いた。
もしかすると暑さ慣れし、打順によっては日陰のベンチで休んでいられる野球部員より、過酷と言えるかもしれない。
そしてもう一つの理由は「楽器の管理の大変さ」だ。
金管楽器は直射日光で唇をやけどしそうなくらい熱くなるし、木管楽器は暑さで楽器本体が壊れてしまうおそれがある。
たまにテレビ中継を見ていると、楽器をタオルでくるんで大事そうに抱えているいるブラスバンド部員が映ることがあるが、楽器を日光から守る対策をとっているようだ。
また風などの影響で音が合わせにくくなる屋外で、熱でピッチ(音程)が狂ってしまったり、出る音がバリバリと割れることもある。
暑さで苦しい中、思うように演奏できないもどかしさと戦いながら、ブラスバンドのメンバーたちもまた戦っているのだ。
ちなみに女子のブラスバンド部員にとっては、これらに加えて「日焼け」もつらいことの一つとなる。
一方で、男子部員のほうは「野球部のメンバーに女子部員がメロメロになること」をつらいと嘆く回答者も一部あったことを付記しておく。
野球応援のための吹奏楽部ではない
そもそもだが、ブラスバンドとして応援に駆けつけてくれる吹奏楽部員は本当に高校野球の試合応援がしたいのだろうか?
そこで野球部中心主義の目が覚めるようなアンケート結果をお見せする。
ブラスバンドをやっている人からすれば、当然の話である。
吹奏楽部への入部動機は「野球の試合応援はまったく関係ない」(54.4%)、「動機のひとつくらいにはなる」(29.4%)と、80%超のブラスバンド部員にとって試合応援は直接的な入部の動機ではない。
あくまで彼らは試合応援ではなく、「吹奏楽をやりたい」から入部したにすぎない。
これも当然の話だが、ブラスバンドメンバーの中には野球のルールさえ知らず、試合直前にあわててルールを叩きこんできたり、誰かに教えてもらいながら応援する部員も少なからずいる。
当然ながら学校によっては、
という衝突事故も起こる。
これは「いいねぇ、アオハルだ!」などと、のんきなことを言って片づけられる問題ではない。
さらに過酷なブラスバンドのウラ事情を、もうひとつご紹介する。
迫りくる3年生最後のコンクール
多くの高校の部活動は夏季大会が終了した時点で、3年生たちが引退する。
野球部の3年生にとっても最後の夏であるが、それは吹奏楽部の3年生にとっても同じことだ。
吹奏楽部3年生が出場する最後の吹奏楽コンクールの開催時期は、高校野球の夏季大会のタイミングとドンかぶりしている。
しかも野球部が勝ち進めむほど、甲子園がある兵庫県以外の高校は試合会場が遠くなっていき、応援のための移動時間で吹奏楽部の練習時間はさらに削られる。
こういったウラ事情を聴くと、野球部もブラスバンド部も名門という高校は一体どうやりくりしているのか首を傾げたくなるほどだ。
いずれにしても夏の大舞台「甲子園」は、ブラスバンド部員のこうした涙ぐましい努力と献身に支えられていることを忘れてはいけない。
高校野球の試合には「もうひとつ」のバトルがある
ここまではブラスバンド内部の戦いを見てきたが、この章ではもうひとつのバトル、つまり外部とのバトルについて見ていくことにしたい。
試合応援にブラスバンドとして参加すると、当然相手チームもブラスバンドがやってくる。
そうなると試合開始時には、ブラスバンドも一塁側と三塁側にわかれて対峙する格好になる。
そうなったとき、彼らはお互いのことを一体どう思っているのだろうか?
「バチバチに意識した」(11.8%)と「それなりに意識した」(48.5%)、合わせて60.3%がやはり相手チームのブラスバンドを意識している。
同じ吹奏楽に打ち込む者同士だからわかる、楽器を通じたもうひとつのバトルがあるようだ。
吹奏楽に門外漢な筆者でもわかりやすいのは、「ハイトーン」と言われるブラスバンド部員ならみんなが憧れる、高音を力強く奏でる技術だ。
たとえばこの動画の駆け上がってくるようなトランペットの音程の高さと暴れっぷり、そしてなにより1本のトランペットとは思えない音量のデカさは群を抜いている。
こうした演奏技術の高さや、大編成でもヨレないリズムなど、アルプス席ではブラスバンド同志がやりあっているというというわけだ。
テレビ中継ではブラスバンドの音は小さく絞られてしまうのでわかりづらいが、球場に足を運んだ際はどちらのブラスバンドが押しているのか注目してみるのも面白い。
それでも野球応援は「やってよかった」が多数派
これまで高校野球の試合応援に駆けつけてくれるブラスバンドの内情を見てきた。
ただそうした内情の過酷さばかり強調するのが本稿の意図ではない。
そこで最後に試合応援をした思い出はどんな思い出として記憶されたのか聞いてみることにした。
試合応援にブラスバンドとして参加したことに「満足以上」の回答した割合が75.0%と、圧倒的な多数派となった。
そうした彼らの声を紹介すると、こうだ。
振り返ると青春したなって感じます。あと応援に行ったことがきっかけで、その後野球部に人と付き合うことになりました。
(25歳女性、トロンボーン)
野球部の人から、ブラスバンドの応援がなかったらあそこまで頑張れなかったと言われて、暑い中楽器のことを気にしつつ、私たちも頑張ってよかったと思えました。
(32歳女性、パーカッション)
野球部員の普段とは違う真剣な一面が見れたのがよかった。青春って感じがして、ブラスバンド部の活動の中で1番楽しかったです。
(21歳女性、バスドラム)
普段関わりがほとんどない運動部と文化部が年に一度だけ手を組む特別な感じが、秘密の取引のようで私は好きだった。お返しではないが、吹奏楽部の演奏会に野球部が花束を持ってお礼に来てくれた。
(38歳女性、バスクラリネット)
高校2年生の夏。甲子園初出場を決めた決勝戦でみんなが流した涙は、生涯忘れられない。
(54歳女性、クラリネット)
このように最初は高校野球に興味もなかったブラスバンド部員であっても、応援演奏で野球部と心をひとつにし、一緒に試合を作り上げたことへの喜びを明かす回答者が多かった。
運動部の極点と文化部の極点が交点をとり結ぶ場所、それが高校野球の夏季大会なのかもしれない。
地方大会は準々決勝あたりからブラスバンドを楽しめる
ここまで本稿を読んでくださった方の中には、試合はもちろんブラスバンドの演奏をひと目見に、高校野球の観戦に行きたくなった方もいるかもしれない。
テレビ中継を見ているとブラスバンドの演奏はBGM程度にしか聞こえないが、球場で聞く彼らの演奏や声援は、地が揺れるほど迫力がまるで違う。
球場に近づくだけで大太鼓のズシンとした音圧を感じることができる。
ぜひ生の演奏を聴いていただきたいところだが、甲子園まで行くのは、地方によってはハードルが高いものだ。
しかし諦めてはいけない。
高校野球は通例だと6月下旬から甲子園出場をかけた地方大会が開催される。
この地方大会は一般人でも1,000円前後の入場料を払えば1日中観戦できるし、なにより準々決勝あたりからブラスバンドが出動してくる学校が多くなる。
地方や出場校にもよるが、おおむね地方大会の準々決勝や準決勝までは客席も比較的空いており、予約購入などせずふらっと立ち寄っても入場できるのもいいところだ。
もちろん地方大会といっても敗退すれば甲子園行きの切符を失うわけで、各校とも真剣勝負そのものだ。
もし甲子園まで足を伸ばすことが難しい人は、近くで行われる地方大会で野球の試合とブラスバンドの演奏の両方を楽しんでみてはいかがだろうか。
まとめ
以上のように、高校野球の応援部隊ブラスバンドの人気曲や過酷なウラ事情を見てきた。
彼らブラスバンドが奏でる一音一音には、たぎるような青春と人知れぬ苦労がしみこんでいる。
それゆえ球場で聞く彼らの演奏は、我々の心を打つのかもしれない。
アンケート実施方法
・アンケート方法 インターネット上でアンケートを実施
・回答者数 高校野球の試合応援に参加したことがある元ブラスバンド部員の男女68名
・調査日 2022年6月8~9日
・設問は単一選択式
・調査主体 【300人のホンネ】編集部
・回答者性別 男性23.5%、女性76.5%
・回答者平均年齢 36.6歳
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